長野の市街地の奥まった路地、
そこには僕が廃ビルと呼んでいる年季の入った雑居ビルがひっそりとたたずんでいる。
まだ大通りを歩いていたときは、ビルに備え付けられた巨大な広告ディスプレイ、自動車や自転車、たくさんの人達が発する音等が入り混じって繁華街特有の活気のある音色を生み出していた。
しかし、この裏路地に一歩足を踏み入れた瞬間、状況はがらりと変わった。
人を寄せ付けないような薄暗さとしんと静まりかえった静寂に僕は少し怖くなった。
僕は廃ビルの前に立ち止まり、深呼吸をした。
胸の奥で不安が渦巻いているのを感じながらも、愛理栖に会える期待が僕を前へと押し進めた。
「ここが廃ビルかぁ。入口は…ええっと」
そう呟きながら、地下へと続く階段を見つけた。
廃ビルの階段をゆっくりと降りながら、愛理栖との昔の出会いを思い出していた。
彼女が所属する「宇宙クラブ」という団体について、まだ詳しくは知らないが、何か特別な力を持っていることは確かだった。
「宇宙クラブって、一体何をするところなんだろう?」
僕は心の中で問いかけた。
階段を降りると、非常用出入口が目の前に現れた。
僕は一瞬ためらったが、意を決してドアをノックした。
「こんにちは〜。宇宙クラブの案内を見て来た者ですが」
声をかけたが、返事はなかった。
誰からも返事は無い。
不安を感じながらも、ドアを開けて中に入った。
部屋の中は薄暗く、長机やパイプ椅子、ホワイトボードが置かれているだけだった。
まるで廃部寸前の文化部の部室のようだった。
突然、前方のホワイトボードの前に愛理栖が現れたので、僕は驚きのあまり声を上げた。
僕は愛理栖に対して複雑な感情を抱いていた。
不安と期待が入り混じり、胸の奥で渦巻いている。
彼女の一挙一動に目を奪われ、
心臓が高鳴るのを感じた。
愛理栖が微笑むたびに、僕の心は温かくなり、しかし同時に、彼女の本心が見えないことに対する不安が募る。
「君、愛理栖ちゃんだよね?
さっきまでここには誰も居なかったような気がしたけど、君はいつからそこにいたの!?」
愛理栖は静かに口を開いた。
「それは、言えません。
実は今日、お兄さんが持っている特別な力を借りたくてここに来てもらいました」
僕は困惑した表情で愛理栖を見つめた。
「僕の特別な力って何?」
「記憶の書き換えに抗う力です」
愛理栖は答えた。
「え?なんか難しくてよくわかんないな」
僕は戸惑いを隠せなかった。
「お兄さんには、人々の記憶が改ざんされるのを防ぐ力があります。
最近、周りの人たちの記憶に違和感を感じたことはありませんか?」
僕は頷いた。
「確かに、最近母親のことを思い出そうとすると、何かが引っかかる感じがするんだ」
「それが、記憶の書き換えの影響です。
お兄さんの力を借りて、その真実を解明したいんです」
愛理栖の目は真剣だった。
「記憶の他には違和感は感じませんでしたか?」
「こ、答えていいんだよね?」
「え?
もちろんですが」
僕…、
もしかして試されてるのかな?
「僕は君の趣味にとやかく言うつもりは無いよ。
だけど女性の下着姿を一応男子である僕に晒すのはいかがなものかと。
せめて上に服……は着てくれない?」
「あれ、嘘?
何で? ええぇぇぇー!!!」
※今回の要約※
廃ビルに呼ばれた青年ひかるは、不思議な力を持つという女の子愛理栖と再会した。ひかるは愛理栖からの最近違和感を感じていないかの問いに対して困惑する。