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第18話 彼らの戦いはこれからだ

 ヒロスタ大会から二週間が経過した。


 大会に夢中ですっかり忘れていたが、大地の学校は中間テストの時期だった。大会が終わり、現実と向き合うこととなった大地は勉強することに。赤点を取ればバイトもゲームも奪われる可能性があるからだ。


 好き勝手するには、それなりの努力も必要なのだ。


 そして、その努力の甲斐あって赤点を回避した大地。答案返却を終えた彼は今まさに監獄から釈放されたような解放感に満ちていた。


「……ゲーセン行こう」


 立ち上がり、天井を仰ぐ大地はぼそりと呟く。

 この二週間、ジョイポットには行っていなかった。アルバイトに勤しみ、シフトに入っていない日はヒロスタの練習に明け暮れていたので勉強を全くしていなかった。だからそれを取り返すにはさすがにゲームをしている暇はなかったのだ。


 だからこそ、赤点もなく重責から解き放たれた今、大地はゲーセンに直行することを決める。というか、決めていた。


「ほな行こか」


 当たり前のようについてくる美咲。


 とはいえ、テスト明け一発目のゲームで一人というのも味気ないので、一緒に行くことを拒んだりはしない。


 一緒に学校を出て電車に乗り込む。


「そういや、大会の優勝賞品って何やったん?」


「結局聞かされてなかったのか?」


「うん」


 あれだけ琴葉をからかっていたのに、結局知らないというオチだったらしい。そういえば結局あのときも答えを明かしてはいなかった。


「ジョイポットで使えるゲームチケットだよ。店長が自腹切って用意したって言うから期待してただけにガッカリだったよ」


「ああ、それもうちの考えた嘘やったからな」


「それも!?」


 何も聞かされていなければこのゲームチケットは中々に嬉しいものだった。なにせ、ジョイポット内のゲームを好きにプレイできるもので、しかも結構な枚数が貰えたから。


 しかし、それなりのものを想像してしまっていたので拍子抜けしてしまったというわけだ。


「ほーん。まあ、ええやん」


「よくねえんだよなあ」


 そして二人はジョイポットに到着する。

クレーンゲームなどが置いてある一階は相変わらずまばらな客数だったが、二階のヒロスタエリアは以前に比べると盛り上がっていた。ヒロスタの大会が話題を生み、客を呼んだのかもしれない。


 その中に一人でプレイする琴葉の姿があった。

 彼女は淋しげな表情を浮かべながら周りを見渡している。


「なんか探してんのか?」


「うふふ、どやろなあ」


 美咲が何だか楽しそうに言う。すると、こちらを向いた琴葉と目が合った。

 彼女はまるで母親を見つけた迷子の子供のように瞳を輝かせるが、ハッとしてすぐにいつもの顔に戻して、こちらに駆け寄ってきた。


「あ、あの」


「琴葉ちゃあああああああん」


 琴葉が何か言おうとする前に美咲が叫びながら抱きつく。そして「ああ、ほんまかぁいいわぁ」と琴葉に頬ずりをする。


「ちょ、離れてください美咲さん」


「ええやないの。久しぶりに会ってんからこれくらい許してーな」


「ううう」


 言っても美咲ががっちりホールドしたままなので琴葉は諦めたようだ。暫くの間そうしていた琴葉だったが、はっと思い出したように大地の方を向く。


「どうして最近来なかったんですか?」


 そう言った琴葉はほんの僅かだが怒っているようにも見えた。とはいえ、ほとんど表情が動かないので大地の気のせいかもしれないが。


「学校のテストがあったんだよ。赤点でも取れば母さんがうるさいんだ」


「不良みたいな見た目してるのにお母さんが怖いんですね」


「見た目別に関係なくない?」


 ふんと吐き捨てた琴葉に、美咲が再び頬ずりをする。


「琴葉ちゃんは大地くんが姿見せへんかったから寂しかってんな?」


 美咲がそんなことを言うものだから、琴葉は顔を赤くして慌てて「ちがいますっ」と否定する。珍しくあわあわとしながら無表情を崩していた。


「琴葉ちゃんな、うちに来てはヒロスタしながら大地くん探してたんやで? な?」


「だから、ちがいますってば! 剣崎さんも真に受けないのでくださいっ!」


 琴葉はゆでダコのように顔を真っ赤にしながら否定する。そこまで強く否定すると逆に疑わしく思えてくるというものだ。


 なので、大地はにんまりと笑う。


「な、なんですか?」


「いやあ、いつもキツイことばっか言うけど、俺のこと大好きなんだなあと思って」


「だからちがうもん!」


 わーわーと琴葉が美咲を振り払ってどこかへ行ってしまう。

 それを見て少しからかい過ぎたことを反省する二人。


「ていうか、お前バイト来てたんだな」


「うちは両立できるタイプの秀才やから。これでも学園トップクラスの成績なんやで」


「え」


「え?」


 どうせこれも嘘なんだろうと思い美咲の顔を見ると、これまでにないくらいに真面目な顔だった。何ならば、疑われたことが心外とでも言わんばかりに驚いていた。


 本当に頭がいいらしい。

 なんとなく、納得いかない大地だった。


「見事ヒロスタの大会で優勝を果たした天才的な才能を持つ俺なわけだが」


「自分でそこまで言うんやね」


「一つだけ心残りがあるわけだ」


 美咲とヒロスタの対戦をしながら大地が改めて言う。

 対戦はしているが、もはや大地は初心者ではない。どころか四天王レベルにまで腕が上達しているので美咲では相手にならないのだが。それでも楽しそうにプレイするのでゲーム自体が好きなんだなあと思わされる。


「なんなん?」


「琴葉へのリベンジだよ」


「でも琴葉ちゃんに勝った毒島さんに勝ったんやから、もう大地くんの勝ちってことでええんとちゃうの?」


「全くよくない。これっぽっちもスッキリしてない」


「ほーん」


「だから今日こそリベンジしてやろうと思ったのに、あいつどっか行っちまうし」


「それに関してはうちらが全面的に悪いわけやけど」


「まあ、そうだな」


 反応が可愛らしいのでついからかってしまう。そういうのは基本的に美咲の役割なのだが、今日それを実行して普段の美咲の気持ちが少しだけ分かってしまった。確かにあれはからかいたくなる。


「そのリベンジ、受けて立ちましょう」


 ちょうど美咲との対戦が終わったタイミングで琴葉が戻ってきた。


 どこかで頭を冷やしてきたのか、いつもの調子に戻っている。さっきの崩れ方を見た後なので平然を装われても逆に違和感があるが、これ以上言うと今度こそ帰ってしまいそうなので黙っておく。


 美咲もさすがに空気を呼んだのか、からかう様子はない。


「いいのか? 俺より強いって言えるのが今日で最後になっちまうぞ?」


「問題ないです。勝ちますので」


 澄ました顔で琴葉は言う。美咲は席を譲り、そのまま大地の後ろの方へと移動した。


 あの日できなかったリベンジマッチである。久しぶりのヒロスタだったが、さっきの美咲との戦いでだいぶ勘は取り戻したし、そこまで実力も落ちていなかった。今日こそは勝てる、という自信に満ち溢れている大地だった。


 コインを投入し、キャラクター選択画面へ進む。


 大地はもちろんオセロを選択する。


 琴葉もキャラクター選択を終えたようでステージ選択画面に進む。ここで両プレイヤーのキャラクターが明らかになるのだが。


「ん?」


「あら?」


 大地は眉をしかめながら、美咲は呆気にとられたように声を漏らす。

 二人の反応を見て、琴葉がひょこっと顔を出し、恥ずかしそうに半眼を大地達に向けてきた。


「な、なんですか?」


 驚くのも無理はない。

 琴葉が選択したキャラクターがこれまで使っていたスカーレットではなくなっていたのだから。


「いや、キャラクターが」


「バーニーになっとる」


 二人の驚いた顔を見て、琴葉は嬉しそうに笑う。


 そして。


「バーニー、わたしの大好きなキャラクターなんです」


 そう言った。

 それがどういうことなのか、分からない大地と美咲ではない。


 大地は込み上げてくる嬉しさを誤魔化すようにガハハとわざとらしく笑う。


「スカーレットじゃなくていいのかよ? そんな付け焼き刃のキャラクターで俺に勝てると思ってるのか?」


「問題ありません。大好きなキャラクターを使って、もちろん勝ちますから!」


 対戦が始まる。

 これまでに比べると接戦である。


 スカーレットではなくなったことによる琴葉の実力の低下、というよりは様々な戦いで得た経験値で大地が強くなっているようだ。


 激しい攻防の末、琴葉が勝利を手にする。


「……嘘、だろ」


 信じられない、とでも言うように大地は声を漏らす。

 すると、琴葉がひょこりと顔を出す。その顔がこれまで見たことないくらいのどや顔だった。対戦に勝って素直に喜んでいるようだ。


「強いなあ、琴葉ちゃん」


「剣崎さんが来ない間、練習してましたので」


 ふふん、と調子良さげに言う琴葉。


 確かにその練習の成果はしっかりと出ていて、琴葉がこれまでにどれだけ練習したのかはなんとなく伝わってきた。それは嬉しいことなのだけれど、それ以上に悔しさが溢れ出す。


「そら勝ててよかったなあ」


「はいっ」


 そのときだ。

 バンっと台を叩き、大地は立ち上がる。


 そして、前に座る琴葉を指差しながら大きな声で言う。


「このまま勝ち逃げなんかさせねえぞッ! もう一回勝負だ!」




 彼らの戦いはまだ始まったばかりである。




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