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第17話 剣崎大地VS毒島

 いよいよ対戦が始まる。


「……」


 指は動く。

 緊張もそこまでしていない。


 込み上げてくる怒りもそれなりに沈めた。

 コンディションは悪くない。頭も冴えている。何ならば今日の中では一番いいかもしれない。


 毒島はグレイシアを使いこなしている。それはさっきの琴葉との対戦を見れば明らかだ。一発の攻撃のあとにコンボを繋げてくる。そして、オセロの防御力ではそう何度も受けれる攻撃ではない。


 一発喰らえば終わり。

 それくらいの気持ちで挑まなければならない。


『さて、キャラクターとステージの選択が終わりました。いよいよ対戦が始まります。両者、準備はいいですか?』


「ああ」


「おう」


 美咲の問いかけに大地と毒島は短く頷く。


 そして、試合開始のゴングが鳴る。


 通常ならば試合開始直後、大地はオセロを相手に接近させる。これまでの敵もそうしてきたし、どちらかが試合を動かさなければならないのであれば自分が、そういう気持ちがあった。


 それは今回も同じだが、大地は敢えて一度距離を取ったままブーメランによる遠距離攻撃を放つ。


 ダメージは知れている。所詮は牽制攻撃に過ぎない。


 避けたところを叩く。

 あるいは、ガードしたタイミングで接近する。


 ブーメランの後を追うようにオセロも動き出す。

 ブーメランの攻撃に対し、グレイシアはジャンプして回避する。そのタイミングを狙って攻撃を仕掛けようとしていたオセロだったが、相手もそれは読んでいた。接近してくるオセロを近づかせまいと攻撃を行う。


 放たれたのはダークフラッシュ。黒い光を相手に放ち攻撃する通常攻撃だ。しかしオセロはそれを回避する。が、回避した先で雷撃を受けた。あれは相手のいる場所に雷を落とす必殺技、ライボルトである。ヒットしたらそのまま追加ダメージを与えてくる。


 必殺攻撃は通常攻撃に比べると与えるダメージ量が大きい。もちろん、この攻撃はオセロにとって致命的なものとなる。


「く、そッ」


 ライフの最大値は一〇〇〇。しかし、今の攻撃でオセロのライフ数値は一気に七〇〇まで減少している。


 これだけの火力を持つグレイシアだが、攻撃を行ったあとに隙ができるのが欠点の一つだ。


 つまり、攻撃を避けさえすれば反撃のチャンスが生まれるということ。


「オイオイ、どうしたよォ。口ほどにもないんじゃねェか?」


 楽しそうに笑みを浮かべる毒島。とはいえ、ゲームを楽しんでいるというようには見えない。まるで無防備の虫をいたぶるような嘲笑的な笑みだ。


 オセロは再び接近を試みる。

 次に飛んできたのはオセロのいる方向に地面から岩が飛び出てくるロックブラスト。連続で三発まで発生させることができ、一発目に当たればそのまま残りの二発も喰らってしまう。


 さすがにその攻撃は避ける。

 攻撃後にできる隙を点いてオセロはグレイシアとの距離を詰める。攻撃範囲に入ったが、そのときにグレイシアが再び攻撃可能な状態に復帰する。だが、グレイシアの攻撃のほとんどは遠距離攻撃だ。自分に近づかせないというのが一つの戦術である。


 故に、どうしても一方的な試合になることが多く、グレイシア使いは友達から嫌われるところがある、というのはまた別の話だ。


 もちろん。

 接近された際の手段が全くないわけではない。


 グレイシアの通常攻撃の一つ、ハイウイングは自身の周りに突風を起こす技だ。この技自体には相手にダメージを与える力はない。自分に接近してきた相手を遠くに吹き飛ばすだけの技だ。


 それにより、再び自分にとって有利な距離を作ることができる。

 距離を詰めればグレイシアがその手段を取ってくることは読んでいる。であれば、大地サイドの出方としては二つある。一つはシンプルにガードをすること。そうすれば飛ばされる距離は最低限で済み、攻撃を行ったグレイシアに再び接近することができる。二つ目は相手が攻撃を出す前に攻撃を当てること。そうすることで相手の攻撃がキャンセルされる。


 ガードか。


「……ッ」


 そう思ったが、オセロは攻撃を繰り出す。

 同時にグレイシアがこちらを掴みにかかる。恐らく、オセロがガードすると踏んで掴み技を発動したのだろう。そのリスクを考慮し、大地は攻撃することを選んだ。結果、グレイシアの掴み技が決まる前にオセロの攻撃がヒットする。


 そこから連続のコンボ攻撃で相手にダメージを与えることに成功した。

 コンボを繋げきったが、グレイシアに与えたダメージはおよそ一〇〇。自分のライフ数値を下回らせるにはまだまだ攻撃が足りない。


 なので、攻撃を続ける。

 グレイシアは距離を置こうと下がるが、オセロが逃さない。グレイシアは決してスピードのあるキャラクターではない。それに対し、オセロは他のキャラクターよりもスピードがあるので、容易に追いつくことができる。


 ハイウイングを発動する隙さえ与えずに、ひたすら攻撃を繰り返す。


 そのときだ。


 大地の中に一つの疑問を思い浮かぶ。


 あまりにも攻撃が当たりすぎている。普通ならばガードを挟まれ反撃される。いくらグレイシアが遠距離タイプだといっても、ハイウイングというふっ飛ばし技もあるわけで、ここまで一方的に攻撃を続けられるものだろうか。


 相手が全くガードをしてこないことに、大地は違和感を覚える。

 認めたくはないが、毒島はこのゲームを何度もプレイしている熟練のプレイヤーだ。ガードを知らないなんてことはないだろうし、使うタイミングを誤っているとも考え難い。であれば、どうして彼はガードを使わないのか。


 刹那の思考。


 勉強はできないがこういった際の頭の回転は速い大地は一つの結論に辿り着く。


「もしかして」


 グレイシアはガードができないのでは?


 キャラクターにはそれぞれ特徴がある。そして強みがあれば、バランスを取る為にデメリットもある。グレイシアの強みはもちろん、その圧倒的なまでの火力だ。いくら防御力が低いといっても数発攻撃を喰らえば終わりなんてあまりにも強力過ぎる。


 となれば、もちろんそれなりのデメリットは用意されているはずだ。


 近距離戦闘に弱いという弱点。その一環としてガードが使用不可である可能性は十分にある。思い返すと他にもそういったキャラクターはいる。


 きっとそうだ。

 大地は確信する。


「しつけェ!」


 そのとき、ハイウイングが決まりオセロは一気に端っこまで吹っ飛ばされる。


 すぐに接近しようとした大地だったが相手の様子がおかしいことに気づき、一度動きを止める。何かある。何か仕掛けてくる、という嫌な予感が込み上げてくる。


 そして、それは正しかった。


「近づいてこなかったのは正解だったなァ。ま、でも、どっちにしても終わりだけどなァ」


 毒島の声が聞こえる。


 同時に画面内のフィールドが暗くなる。


「これは……」


 グレイシアの超必殺技である『ダークメテオ』が発動した。

 グレイシアの超必殺技発動時、周りに闇のオーラが発生し接近した相手にダメージを与える。つまりあのままオセロが接近していれば闇のオーラによりダメージを受け、吹っ飛ばされた挙げ句、追加攻撃を受けることになっていた。


「さっきまでのお前の攻撃で、俺の切り札ゲージは十分に溜まったッ!」


 暗くなった空から一つ目のメテオが落ちてくる。


 オセロはメテオの落下地点を予測し避けようとする。が、メテオは僅かに軌道を変えた。


 相手の動きについてくるホーミング機能がついているのだ。もちろん完全に追いかけてこれるわけではない。落ちてくるメテオが一つだけならば避けることも不可能ではないだろう。


 つまり。

 もちろん、メテオは一つではない。


 二つ目、三つ目と次々と空から落下してくる。


 この技は切り札ゲージが溜まっていればそれだけメテオの数が増える。発動時のゲージは九〇パーセント近くまで溜まっていた。


 何とか一発目のメテオは避けることができた。


 だが。


 一発目で追い込まれたところに二発目が落下してきたので避けきることは困難だ。咄嗟にガードを発動する。ガードをすることでダメージを受けることはないが、そうなると問題はガードがいつまで保つかだ。


 二発目のメテオを凌ぎ切ったオセロに三発目が襲い掛かる。


 そのとき、空からは四発目のメテオが落下してきていた。


 今の状態でガードゲージは半分を下回っている。それだけで分かるが、確実に四発目のメテオを受け切ることはできない。


 案の定、三発目のメテオの攻撃を受け切ったところでガードゲージがなくなり、オセロはスタン状態に陥る。幸いだったのは三発目のメテオが消滅してくれていたことだ。四発目のメテオを避けることはできないが、オセロのライフ数値はまだ七〇〇ある。さすがにこれ一発でゼロになることはないだろう。


 四発目のメテオを受け、最終的に残ったオセロのライフ数値は二九〇。メテオによって与えるダメージが違うのかもしれないが、一気に削り取られてしまった。グレイシアの火力を考えるとこれ以上は攻撃を受けれない。


 だが。


 ここまでライフ数値が減れば今度は大地にチャンスが訪れる。


 オセロの超必殺技であるリベンジバーストは相手がガードすることで容易に防がれてしまう。そこをどう当てるかという駆け引きがあるが、グレイシアにはそのガードがない。つまりタイミングさえ誤らなければ攻撃は当たる。


 これだけのダメージを受け、相手の受けているダメージを考えれば相当なダメージを与えることができるはずだ。


「一気に終わりにしてやるゥ」


 もちろん。

 それは毒島も分かっていることで、そうはさせまいと動いてくるに違いない。


 ここからだ。


 ここからどう逆転するか、そこでオセロを使う大地の腕が試される。


 グレイシアは一気に試合を終わらせようと攻撃を仕掛けてくる。


 ライボルト。


 ロックブラスト。


 ダークフラッシュ。


 一つでも攻撃を受ければ終わりであるオセロだが、ガードを駆使してグレイシアとの距離を詰める。攻撃範囲内に入れると思ったそのとき、グレイシアが新たなるモーションを見せた。


 冷気を放ち、相手にダメージを与えつつ動きを封じる氷の魔法、ハイフロストだ。空中で接近した瞬間を狙われたオセロだが、咄嗟のところで緊急回避を発動する。ハイフロストを避けつつ横に移動しついにグレイシアとの距離を詰め切った。


 リベンジバースト発動圏内だ。


「……ッ」




「く、そ、がァ!」




 大地はボタンを押す。




「なぁんてなァ!」




 同時に、毒島もボタンを押した。


「なに!?」


 グレイシアにガードはない。

 であれば、相手が起こすモーションは十中八九、ハイウイングだ。オセロをふっ飛ばし、再び自分が有利になる距離を保とうとしている。この瞬間、もし同時のタイミングでリベンジバーストを発動した場合、恐らくハイウイングの方が発動が速いのでオセロの超必殺技は失敗に終わる。


 その上、吹っ飛ばされて遠距離攻撃を受ければオセロのライフは尽きる。


 大地の僅かな動きを見て、毒島はその展開を確信した。


 グレイシアがハイウイングのモーションに入る。


 が。


「なんてな」


「はッ?」


 オセロが起こしたモーションは超必殺技ではなかった。


 唯一。


 ガードでさえ僅かに距離を離されるハイウイングに対して距離離されることなく、どころか相手に一撃喰らわせることができる手段がある。


「俺が使ったのはリベンジバーストじゃねえぜ」


 オセロの持つカウンター技だ。


 相手の攻撃に対してタイミングよく発動すれば攻撃を受け流し相手に反撃する、メアリーとの戦いの決定打となったオセロの奥の手。


 ダメージを与えないとはいえ、ハイウイングは攻撃とみなされるためカウンターが発動する。カウンターを使えば吹っ飛ばされることなく反撃できることは気づいていた、それでもこの対戦の中で一度だって使わなかったのはまさしくこの瞬間の為である。


 メアリーのときと同様、相手の脳にリベンジバーストをチラつかせ、それを餌にして発動し改めて相手の隙を作る。


「しま、くそッ、がァァァあああああああああああッ!」


 オセロの攻撃が相手に炸裂する。


 そしてリベンジバーストを放つ。


 避けきれなかったグレイシアは最大威力のリベンジバーストを受けることになる。この攻撃で決まる。それは大地も、会場の誰もが、毒島でさえも思った。


 しかし。


 アニメーション演出内、オセロの攻撃が終わったタイミングでグレイシアのライフ数値は七〇残った。


「グ、ハハハハッ! 残念だった――な?」


 毒島の動きが止まる。


 オセロが攻撃を終えたというのに、バトル画面に戻らない。そのことをおかしく思った毒島だったが、大地はそれを見て口角を上げる。


 それはまるで、勝ちを確信したような。


「いや、やっぱり終わりみたいだぜ」


 オセロの超必殺技、リベンジバーストは自身のライフ数値が低ければ低いほど相手に大きなダメージを与える一発逆転の技である。その分、攻撃を当たるのが難しいといわれているのだが、もしそれを当てることができれば一気に形勢逆転まで持っていける強力な技だ。


 リベンジバーストにはもう一つ、低確率で起こる技がある。


 切り札ゲージが溜まっていればその分確率が上がるとされている追加攻撃。大ダメージを与えた後のトドメの一閃。これまで何度もオセロを使用し、リベンジバーストを発動してきた大地でさえあまり見ることのなかった光景。


 僅かに残ったグレイシアのライフ数値を刈り取る一閃が炸裂する。


「嘘だァァァああああああ! こんなもん完全に運じゃねえかッ! それがなければオレが逆転してたってのにッ!」


「言い訳がましいぞ、毒島大輔」


 グレイシアのライフがゼロになり、試合終了のゴングが鳴る。

 大地は立ち上がり、こちらを睨みつけてくる毒島の前まで移動する。


「運だって? 上等じゃねえか。そういう不確定の要素だってゲームを楽しむ醍醐味の一つだ。イチかバチか、伸るか反るか、そういうスリルはいつだってゲームを盛り上げてくれるんだぜ? 見事にギャラリーは沸いてるだろ」


 大地に言われて毒島は拍手喝采を起こすギャラリーを見渡す。


 これまで自分が浴びたことのないような称賛の声が飛び交っている。


「それに、昔から言うじゃねえか」


 大地の言葉に再び毒島は視線を戻す。

 自分を負かした男は、心の底から楽しそうに笑っている。対戦が終わって、こんな笑っている相手がいただろうか、と毒島は自分の過去を振り返ってしまう。


「運も実力の内ってな」


 楽しそうに笑う大地を見て、毒島大輔は自然と口元に笑みを浮かべていた。


 それに気づき、すぐに口元を引き締めたが。


「ハッ、くだらねェ」


 そして、やはりいつものような言葉を吐き捨ててしまう。


 だが。


「まァ、約束は守るぜ。オレも一応、ゲーマーだからな」


 こうして、一日かけて行われたヒロスタ大会は幕を閉じる。


 ゲームに命をかける者達の戦いは終わった。


 しかし、これが最後ということはない。


 目の前に相手がいて、そこにゲームがあるのならば、いつだって戦いは起こる。


 たかがゲーム、されどゲーム。


 指先に自分の全てを懸けるゲーマー達は、今日もコインを投入する。

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