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第16話 決勝戦

『それでは両者入場です!』


 美咲の案内で大地と毒島はステージに上がる。


 入場というほど派手なステージではないのだが、せっかく上がっているテンションに水を差すのもどうかと思い、大地はいつものツッコみをグッと堪える。そもそも、いつものようにワイワイとはしゃぐような気分でもないのだが。


『赤コーナーは剣崎大地! ヒロスタを始めたのはなんと一ヶ月前! 日々の練習を重ね、強敵を打ち破るダークホースとなりました。勝利に勝利を重ね、辿り着いた決勝戦、ここでも勝利を掴み取ることができるだろうか!』


 テンションのボルテージがマックスを越えようとしている美咲は思いついたように入場のコメントを付け足した。いつもの大阪弁ではないのが何だか聞き慣れない。


『続いて青コーナーは毒島大輔! とにかく強いぞ!』


 毒島のコメントは薄っぺらいことこの上なかった。美咲は毒島のことをほとんど知らないので仕方ないが、それならば最初からやるべきことではない。


 そもそもを言うと、赤コーナーも青コーナーもない。


「随分嫌われたものだな」


 観客席からの視線を感じて毒島が言う。

 彼の噂はゲーマーならば一度は耳にする。それくらいに名の知れた人物なのだ。その噂がいい意味なのかそうでないのかは言うまでもないが。そして、今回の大会の中で行われた卑劣な行為はここにいる誰もが見ていた。


 彼のことをよく思う人間はいないだろう。


「分かってるんなら態度改めたらどうだ? 友達なくすぜ」


「いらねェんだよなァ、友達なんてもんはよォ」


 毒島がそう言ったタイミングで筐体の前に辿り着く。なので二人はそこで別れてそれぞれの席についた。


『キャラクター選択画面に移ります。それぞれ、自分のキャラクターを選んでください』


 この大会は途中でキャラクターを変えることが許されている。


 自分の手の内を晒すまいと一番使えるキャラクターは温存しておくというのも一つの手段である。が、それを実行した結果、勝ち残ることさえできないというパターンに陥る可能性もある。


 大地は変わらずオセロを選択する。

 ステージ選択画面でお互いの選んだキャラクターが公開された。


『剣崎選手は変わらずオセロ! パワーと防御力は低いものの、コンボ数とスピードを武器に戦うキャラクターだ。超必殺技であるリベンジバーストは自分のライフ数値が低ければ低いほど相手に与えるダメージが増す一発逆転のまさしく奥の手! それをどう使うのかに注目です!』


 全部言いやがる。


『対する毒島選手も変わらず魔王グレイシアだ! 特徴は何と言ってもその圧倒的な火力。魔法による遠距離攻撃を得意とするキャラクターだが、反面物理攻撃に対する防御力は非常に低い! が! しかぁし! その火力で相手の瞬時に焼き尽くす! 防御力の低いオセロとは相性最悪か!?』


 こっちも中々に言う。








 そのアナウンスを聞いていたメアリーは、隣で心配そうな顔をする琴葉の背中をぽんと叩く。


「ほら、彼の対戦始まるわよ。あなたが見てあげないでどうするの?」


「……はい」


 自分のせいで大地が変な勝負をすることになっている。それに対する負い目を感じているのだろう。しかし、だからといって目を背けていい理由にはならない。


「彼は琴葉ちゃんにも伝えたいのよ?」


 ゲームは楽しいもの。

 勝ち負けよりももっと大事なものがある。


 いつか琴葉が失ってしまった、捨ててしまったその大事な気持ちを取り戻させようと大地はステージに立っている。琴葉とのリベンジに燃えていた大地だったが、今はその気持ちを燃やして戦いに挑んでいるに違いない。


「はい」


 ようやく琴葉は顔を上げる。


「けどまあ、大地の野郎が勝てるとは思えへんけどな。オセロとグレイシアの相性も最悪やろ。技によっては四発くらいで終わるんちゃうか?」


 並んで観戦するメアリーと琴葉の後ろからコテコテの大阪弁が飛んでくる。二人は誰だろうかと後ろを振り返った。


「誰?」


「ヨシキや! 悲しなるボケはやめい!」


 二回戦で毒島に負けて姿を消した四天王のヨシキだ。

 相変わらずの金髪にアロハシャツだがサングラスは外している。そのせいで顕になった瞳はつぶらで、彼の本来の姿が思い浮かぶ。


「ああ、いたわね。そんなのも」


 本気か冗談か分からないトーンでメアリーは肩を落とす。


「酷い奴やでほんま。まあええけども」


 言いながら、ヨシキは再びステージの方に視線を向ける。

 それを見たメアリーも前を向いた。そのときにヨシキの言葉を思い出す。

 確かにグレイシアの火力を前にするとオセロの防御力では最悪の場合四発程度の攻撃でライフが尽きる可能性もある。そこを考えれば相性がよくないと考えるのも至極妥当なものだろう。


 しかし。


「一概に彼が不利とは限らないわよ」


 メアリーは言う。


「何やて?」


 それに対してヨシキは眉をしかめた。


「そこだけを見れば確かに相性が悪いように見える。けれど、グレイシアは近距離戦闘に持ち込まれると攻撃手段を失うわ。反面、オセロは近距離戦闘に長けている。もしも彼が自分のペースで試合運びができたとしたらまだ分からないわ」


「それはもちろん俺だって思った。もちろん試しもした。けど、さすがとしか言いようないけど、隙はなかった。あいつは自分のデメリットを把握してたで」


「それはあなたの場合の話でしょ。さっき戦ったからこそ確信を持って言えるわ。彼は強い」


 メアリーはステージにいる大地を見る。


 自分を負かした相手。琴葉の為に毒島をぶっ倒すつもりでいたメアリーだったが、その役目も彼に譲った。自分に勝った大地ならば、もしかしたら毒島を倒してしまうんじゃないか、と思えてしまう。


 大地のプレイには、そう思わせる何かがあった。


「それだけじゃないですよ」


 そんな二人の会話に割り込んだのは琴葉だ。


「今回の対戦の中で最も重要なのはグレイシアの一番の欠点です」


「ああ、そうね。そうだったわ。そういう意味でも、彼が不利とは言い切れないわね」


「何やったっけ?」


 琴葉の言葉に頷くメアリーと違って、あまりグレイシアと戦う機会のなかったヨシキはいまいちピンときていない様子だった。琴葉は呆れたように小さく溜息をついて、そして小さな声で言う。


「グレイシアはガードを使えない」

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