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第13話 勝ち残ったのは

「ヨシキくんは?」


 二回戦を終えて、大会は休憩の時間に入る。

 これまでステージで何やら作業をしていた美咲が大地達のもとへとやってくる。


「進行なんだからその辺は把握しとけよ」


「ヨシキさんが可哀想ですよ?」


「せやな。それで?」


 微塵も響いていないような軽い返事をした美咲が再び訊いてくる。


「毒島ってのに負けてどっか行ったよ」


 二回戦で毒島と対戦したヨシキ。事前にメアリーに訊いてみたところ、毒島が勝つだろうという予想があったが、その通りになってしまった。


 大地からすれば毒島という男の実力は未知数だが、これで少なくとも四天王並みの腕を持っていることは証明された。その為に負けてしまったヨシキは災難だったが。


「そういえばマッスルさんもいませんね?」


 見たくなくても視界に入ってきたあの巨体が、確かに今はどこにも見当たらない。


「マッスルなら帰ったわよ」


 やってきたメアリーが言う。


「え、負けたの?」


「ええ」


「誰にですか?」


 琴葉が訊く。


「私」


 即答するメアリーに全員が「ああー」という声を漏らす。

 メアリーに負けたことよりは、奇跡的にメアリーと戦えたことに感心した三人だった。


「なんか仕組んだのか?」


 あまりにも出来すぎな話に、大地は美咲の工作を疑う。


 が。


「何もしてへんよ。あれ機械が勝手に決めるんやで?」


「だよな」


「メアリーさんと戦えたのなら本望ですよ」


 負けてしまったが。

 果たしてマッスル藤岡がメアリーに勝利する日は来るのだろうか。


「残ったのは私達三人ってわけね」


 大地、琴葉、メアリーの三人が勝ち残った。

 三回戦に勝ち上がったのは合計で八人。これに勝てばセミファイナル出場となる。


「そういえば、これ優勝賞品が結構豪華らしいで。店長が自腹切って用意した言うてたわ」


「マジかよ」


「稼ぎも少ないでしょうに」


 大地とメアリーはどちらかというと店長の心配をするが、その一方で琴葉はきらきらとした瞳を浮かべている。


「豪華賞品って何なんですか?」


「ポメラニアン」


「ほんとですかっ?」


「う・そ」


 笑顔で言う美咲。嘘をつかれたのに、何故か琴葉は嬉しそうだった。


「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」


「わたしイヌが苦手なんです。もし本当に優勝賞品がポメラニアンなら優勝できないじゃないですか」


「そういうことね」


 優勝賞品にされるポメラニアンの気持ちを考えると、さすがにそうはならないだろうと思うが。欲しくもないペットを無理やり引き取らされてはたまったものではない。


「じゃあほんとはなんなんですか?」


 改めて琴葉が訊く。


「日本一周旅行やって」


「ほんとですかっ?」


 今度はめちゃくちゃ嬉しそうだった。

 ゲームで勝って日本一周旅行に行けるとなれば嬉しいだろう。


 が。


「う・そ」


「……っ」


 琴葉はショックを受ける。

 もしもそんなものが優勝賞品にされたとしたら、本当に店長のお財布事情が気になってしまう。それとも実は大富豪なのかと疑ってしまう。


「なんで嘘つくんですか?」


「ごめんごめん。琴葉ちゃんの反応が面白くてなー」


「ちゃんと答えてくださいっ」


 あははー、と美咲は笑う。


「本当はな、マンションの一室を使って作られたゲーム専用部屋やって」


「ほんとですかっ!?」


「もちろん嘘やで」


「なんで嘘つくんですか!」


 この次元になると逆になんで信じるんだよ、と心の中で思う大地とメアリーだったが楽しそうだしこのまま放っておくかと無言を貫く。


「実は一泊二日の温泉旅行なんやって」


 美咲の言葉に大地とメアリーがピクリと反応する。

 さっきまでと違い、微妙に有り得そうなラインだったからだ。もし本当に温泉旅行が優勝賞品なのだとすれば、それはめちゃくちゃテンションが上がるものだ。店長は賞品を決めるセンスが抜群である。


「ほんとですかっ?」


 案の定信じる琴葉。


 美咲の次のリアクションを、大地とメアリーは横目で気にする。どうしてか、今回はやけに答えを溜める美咲。自分たちでさえも期待していることがバレているのかもしれない。だとしたら何だか恥ずかしい話だ。


「う・そ」


「もーっ!」


 ぽかぽかと美咲を叩く琴葉。それを美咲はあははーと笑いながら受ける。

 その横で大地とメアリーは密かに肩を落とすのだった。


「実はうちもなんにも知らされてないんよ。賞品用意したっていうのは聞いたんやけど」


 現在進行系で琴葉に叩かれながら美咲がそんなことを言う。


「ならさっさとそう言えよ。さっきまでの時間は何だったんだよ」


「息抜きやん。ピリピリしっぱなしなのもイヤやろ?」


「別にピリピリしてないけどな」


 と、言いながらも実は少しだけ感じていた。

 大地がというよりは、琴葉やメアリーの空気感がさっきまでは少しだけいつもと違ったのだ。美咲がおふざけをしたことでいつもの空気に戻ったのだが。大地にはあれをどうにかできなかった。


 もし本当に美咲がそれを気にしていたのだとすれば、感心する他ない。


「もうすぐ三回戦が始まるね。うちは準備に戻るとするわ」


 じゃっと手を挙げる美咲が思い出したように付け足す。


「三回戦からは楽しい演出があるから期待しとってな」


 それだけを言い残し、美咲は去っていった。

 残された三人は、それが何のことなのかさっぱり分からないまま大会再開の案内を待つのだった。


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