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第11話

 駅から少し歩いた場所にあるとあるゲームセンター、ジョイポット。


 その日、ジョイポット内二階にあるヒーローズスタジアム……通称ヒロスタのエリアは賑わっていた。


 いつもならばちらほらと人がいる程度だが、その日はどこもかしこも人で埋まっている。一つのゲームにここまでの人が集まるのは珍しい。


 五月某日、日曜日。

 その日、ジョイポットではヒロスタの大会が開かれようとしていた。


「ついにこの日がやってきたぜ」


 剣崎大地。

 この大会にてライバルである四条琴葉にリベンジを誓った男。およそ一ヶ月、そのリベンジの為にひたすら練習に明け暮れた。最後の一週間は琴葉と手合わせをすることもなかったので、結局どこまで近づけたのかは本番まで分からない。


「お、剣崎だ」


「四天王に勝ったらしいな?」


「相当やりこんでるぜあれは。俺何度か対戦したけど日に日に強くなってやがる」


 大地の登場にエリア内にいた客がざわつく。

 この一ヶ月、特に四天王との戦いがあったことで大地は少しだけ有名になった。今回の大会で注目されているプレイヤーの一人である。


「おはようございます、剣崎さん」


 そんな大地の後ろから低いテンションで挨拶をしてきたのは四条琴葉。

 今日は日曜日なので制服ではないが、上はジャージで下はスカートというよく分からないファッションだった。とはいえ、いつも見るのは基本的に制服なので珍しいものではある。


「おう」


「何だか注目されているみたいですね?」


「そうか?」


 周りの目はあまり気にしたいタイプなのか、大地は言われてから周りを見る。しかし、やはりそういうふうには思えなかった。彼が鈍いというだけで、琴葉と合流した大地はさっきよりも注目を集めている。


「俺はこの日を待ちわびていた。今日、お前にリベンジを果たすぜ!」


 ビシッと指を指しながら大地は宣言する。

 それに対して琴葉はふふっと笑う。


「受けて立ちます。が、わたしと対戦する前に負けるなんてオチはやめてくださいね」


「当たり前だ。お前とは決勝戦という最高の舞台で戦うのが俺のシナリオなんだよ」


 普通に戦えば、そこら辺にいるプレイヤーには負けないという自信が、今の大地にはあった。


 それは傲慢や過大評価というわけでもなく、それくらいに大地は実力をつけている。とはいえ、何が起こるか分からないのがゲームというものだが。


「ハッ、その言い方やと俺にも余裕で勝つって言うてるように聞こえるで?」


 おかしそうに笑う声が後ろから聞こえた。

 声で誰かは予想がつくが、大地と琴葉は振り返る。


「いや、俺はあんたに勝ってるから。何度も」


「俺だってお前に勝ってるやないかい! 何度も!」


 四天王、ヨシキである。

 派手な金髪、サングラスにアロハシャツといつもどおりのファッションだ。


 大地が自身のレベルアップの為に最も多く戦ったのはこのヨシキである。その中で勝つこともあれば負けることもあった。彼とのギリギリの戦いは大地の実力をこれでもかというくらいに底上げしてくれた。


 大地が強くなればヨシキも強くなる。

 ヨシキに負ければ大地はまた強くなる。


 そうやって、何度も何度も戦っているうちに二人に実力は確実に上がった。


「今日勝った方が本当の勝者や。ええな?」


「ああいいぜ。負ける気がしないけどな」


 バチバチと睨み合った二人はフンと同時に顔を背けた。そしてヨシキはそのままどこかへ行ってしまう。美咲のことが大好きなので探しにでも行ったのだろう。


「そういや美咲はいないんだな。こういうの好きだからてっきり参加するものだと思ってたけど」


「美咲さん、今日は司会進行らしいですよ」


「ああ、働いてるんだ」


 こういうイベントをするということはいつもより人が来るということだ。それはつまり従業員サイドも人が必要になるから休ませてもらえなかったのだろう。可哀想に、と大地は思った。


「今日もアツアツね、お二人さん」


 ふふふと笑いながらやってきたのはメアリーだ。

 タンクトップシャツの上から薄めのカッターシャツを羽織り、下は体のラインが出るジーンズを穿いている。胸元は開いているので大きな胸がこれでもかと主張している。自分の魅力の見せ方を熟知しているようだ。


「べべべ別にそういうのじゃないですっ!」


 そんなメアリーの言葉に全力の否定を入れたのは琴葉だ。どうせ冗談だろう、とどうして流すことができないんだろか。


「結局あれから一回も会わなかったな」


「そうね。一応、暇なときに顔は出してたんだけど。時間が合わなかったみたい」


 メアリーと遭遇したあの日以来、結局彼女と顔を合わせることはなかった。なので対戦はできていない。つまり、大地にとって彼女の実力は未知数ということになる。


 しかし四天王と呼ばれているだけあって、実力は高いことは間違いない。勝ち進む上で大きな壁となるだろう。


「今日はあんたとも戦いたいぜ」


「私もよ。もちろん、君が勝ったらデートしてあげるわ」


「いや、それは別にいいけど」


「拒否権はないわ。私は自分よりゲームの強い人と付き合うって決めてるんだから」


「……そう言われても」


 勝たない方がいいのか? と大地は少しだけ思ってしまう。


「心配ない。お前を倒し、メアリーと戦って勝利を掴むのはこのオレだからな」


 大地とメアリーの間に割って入ってきたのは大男、マッスル藤岡だ。

 相変わらず目立つアフロに筋肉を魅せるためのタンクトップシャツ。後ろに立たれるとその大きさによる圧力が凄まじい。


「あら、マッスル。来てたのね?」


「大会でなら、メアリーも戦ってくれるだろう?」


「もちろんよ」


 メアリーの肯定を聞いて、マッスルは二カリと笑う。そしてズカズカとどこかへ行ってしまう。マッスルとはあれから何度かジョイポットで遭遇した。大地は実力を上げるために彼とも何度か手合わせをしたのだ。


 それでも、やっぱりよく分からない奴である。


 今回の大会、やはり勝ち上がる上で壁となるのは四天王の存在だろう。

 四天王をどう倒すかがカギである。そこで四天王同士で潰しあえばいい、とかは思わないのが大地だ。何ならば、全員自分がぶっ倒すという気持ちさえある。


「あれは」


 周りがざわついていた。

 何事かと周囲を見渡したメアリーが目を見開いた。


 彼女の横顔は、まるで親の敵でも見たような顔をしていた。


「何だよ?」


 大地はメアリーの視線を追う。


 そこには二人の男がいた。階段を上がってきて、こちらに向かってきているところから、大会の参加者であることは察することができる。


「誰だよ?」


 一人は体のゴツい男。

 マッスルに比べると背丈は小さいがその分横に大きい。ツーブロックの短髪、耳にはピアスがぶら下げられている。目付きが悪く、容姿だけで周りから怖がられるという意味では大地と一緒だが、その意味合いか違いそうだ。


 もう一人は小さい男だ。

 短い髪、糸目に出っ歯。立ち位置的に大きな男の舎弟のような雰囲気。糸目キャラは本気を出すと強いというイメージがあるが、とてもそうには見えない。リアルファイトが起これば真っ先に倒れそうなほどにヒョロヒョロだ。


「毒島よ」


 ゴツい男を見ながらメアリーが言う。

 毒島という男はメアリー以外にも、いろんなプレイヤーに注目されていた。


「有名なのか?」


「まあ、そうね。悪い意味で、だけど」


 意味深に言うメアリー。

 そのとき、毒島から隠れるように琴葉が大地に後ろに移動した。震えてこそいないが、大地の服を掴んでいる。


「けど、ゲームの腕は確かよ。あいつが参加するとなると、今回の大会は荒れるかもしれないわ」


 いつもの冗談を言うような雰囲気ではない。

 どうやらあの男は本当に手練れのようだ。


「その後ろの奴は?」


「知らないわ」


「そうか」


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