その日の放課後。
授業を終え、帰り支度をしていると「準備できた?」と美咲が大地の机までやってきた。ちょうど終わったタイミングだったので「ああ」と答えて教室を一緒に出る。「剣崎死ね」「爆ぜろヤリチン」と後ろから聞こえてきた罵声はスルーすることにした。
「今更やけど剣崎くんは電車やんね?」
「ああ」
「てことは定期やろ?」
「まあ、そだな」
「これから向かうとこ、電車で行くんやけど大丈夫やんな?」
とは言ってくるが大丈夫じゃないと言われたときの想定はしていなさそうだ。
そもそも、どうして彼女は大地をゲームセンターに誘ったのだろうか。それがまだハッキリとしていない。
美咲は大地のことが好きでデートに誘う口実にゲーム好きという好みを利用したのか。そう思おうとしたが、誘うときの態度がどうにもそんな風には感じなかった。大地と遊ぶというよりはゲームセンターに向かうことの方が重要だとでもいうように見えた。
ならば、ゲームセンターに行きたいが一人で行く勇気はなく、かといって女子の友達は一緒に行ってくれない、みたいな感じの理由だろうか。有り得ないことではないが、それだと大地である必要はない。
大地の友達に聞かれないように誘ってきたところを見ると、誰でも良かったわけではなく、それに複数人であることを良しとしていなかった。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
「あ、おんなじ方向なんやね」
「どこに向かうんだ?」
「淀川駅」
その駅は学校の最寄り駅から五駅のところにある。ここから電車で二十分もかからないくらいだろう。
「そこ、俺の最寄り駅だ」
「え、そうなん? 奇遇やね。うちもそこなんよ」
思いも寄らないところから共通点が発覚し、大地は内心ちょっとテンションが上がっていた。
しかし、女子の前なのでまだ硬派を気取りたい気持ちを捨てきれず「へえ、そうなんだ」とつまらない返事をしてしまう。
そもそも、ギャルゲーをしている時点で硬派かどうかは定かではないが。
「もしかしたら家も近所かもしれんなあ」
「いや、さすがにそこまで偶然は重ならないだろ」
なんて話をしながら電車に乗り込み、淀川駅まで向かう。電車の中でも軽い雑談は続いていた。
「剣崎くんはなんのゲームが得意なん? やっぱり女の子口説くゲーム?」
「その話忘れてもらっていいですかね?」
大地が言うと、美咲はケタケタと笑いながら「ごめんごめん」と申し訳無さそうな感じを一切見せずに謝ってきた。
「それで?」
「得意っていうと何だろ、やっぱり格ゲーかな。やり込めばやり込んだだけ力になるしな」
「ああね。確かに好きそう。逆にクイズゲームとかは苦手そうやね?」
「シンプルに学力を競うってなるとどうしてもな。ひらめきとか瞬発力とか、そういうところで勝負できるならまだ何とかなるんだけど」
「シューティングゲームとかは? ゲームセンターにもあるやろ? ほら、ゾンビがいっぱい出てくるやつ」
「あれは別に、可もなく不可もなしって感じかな。別段得意ってわけじゃないけど、普通にクリアはできると思う」
「その言い方からして、プレイしたことはない感じ?」
「ああ。地元のゲーセンはクレーンゲームかちょっとレトロなゲームしかなかったからな。綾崎はゲームすんの?」
「んー、まあどちらかと言われればイエスかな。といっても、得意ってわけでもないんやけどね。うちはエンジョイ勢なんよ」
「なるほどね」
ゲーム好きの全てが勝ちに拘っているわけではない。あくまでも楽しむことが目的の人もいる。そんな相手にガチで挑むことが正しいのかと言われると賛否両論ある。エンジョイ勢にはエンジョイ勢の、ガチ勢にはガチ勢の楽しみ方があるのだ。
「もっと言うなら、うちは布教勢なんよ」
「それは聞いたことない」
「この世にある面白いゲームを、まだ知らぬ人へ伝えるのが目的なんや」
「つまり、今日俺を誘ったのもその布教が目的ってことか?」
「鋭いねえ。うち、勘のいいガキは嫌いやで」
「同い年だろ」
電車が目的地へと到着したので二人は降車する。
この駅を利用するようになって一週間経つが、まだ自分の中に違和感が残っている。これまでずっと使ってきた駅が体に馴染んでいるのだろう。そんな大地とは違い、美咲は迷いなくてくてくと歩いていく。
駅を出て少し歩くと『ジョイポット』という看板が見えてきた。外観がゲームセンターなのであそこが目的地で間違いはなさそうだ。大地の知るところの『サガ』や『ナメコ』とは違うところ、チェーン店ではなさそうだ。
「ここやで」
二階建ての建物を指差した美咲はそのまま中に入っていく。
一階の入口付近にはクレーンゲームが並んでいた。ゲームセンター特有のガチャガチャした騒音の中をさらに歩くと音ゲーや万人受けするジャンルのゲームが置いてある。クレーンゲームの景品も若者に人気のキャラクターや最近流行りの『鬼滅の剣』や『魔術廻戦』といったものが揃っている。
「一階はライト層向けのラインナップやねん。うちらが行くのはこの先の二階やで」
ちょっと覗いてみても興味が惹かれなければすぐに出てしまうのが客の心理だ。いくらコアなファンがいるとしても新規の客を掴まなければ経営に関わってくるのでその辺も考慮してのことだろう。
外から見てガチなオタクが集まっていると入店する気が失せるからな、と思ったが大地は言葉にはしなかった。
二階は美咲の言うようにライト層というよりはゲーマー向けなラインナップが並んでいた。
音ゲーもあるが、中でも対戦ゲームやオンラインゲームのようなものが多く見える。いわゆる萌えアニメのクレーンゲームも二階に追いやられていた。オタクというのはいつの時代も生きづらい生き物だ。
「へえ、いろいろあるんだな」
二階に入った途端、まるで遊園地に来た子供のように大地は気分が高揚する。ゲーマーからすればゲームセンターは遊園地のようなものなのかもしれない。まして、ゲームは好きだがこれまで事情があって大きなゲームセンターに来れなかった大地のような人間からすれば尚の事だろう。
「お、あれグァンダムじゃん。あっちはフエイトも」
「知ってるん?」
「ああ。でも筐体はなかったからプレイはしたことない」
「ゲーム好きなら話題は嫌でも入ってくるもんな。しかし! 本日、うちがご紹介したいゲームはそれらではありません!」
美咲がまるでネットショッピングでもしているようなテンションになる。そして、少し離れたところにあるゲームを指差した。
「あれは」
複数体のキャラクターが映る大きなポップ。それらのキャラクターに関連性というか統一性のようなものはない。人間がいれば動物もいる。二足歩行だったり、服を着ていたり。モンスターもいるし、剣を持つキャラクターもいれば拳を握るキャラクターもいる。
「知らへん? ヒーローズスタジアム――通称ヒロスタ」
ヒーローズスタジアム。
それは様々なゲームのキャラクターをプレイアブルキャラとして動かし戦う格闘ゲームである。『あのヒーロー達が次元を超えて集結。夢の対決が実現!』というキャッチコピーからも分かる通り、キャラクターが作品の垣根を超えて一同に集うオールスターゲームだ。
「知ってる! 超知ってる! 俺、あのゲームめちゃくちゃやりたかったんだよ!」
ゲームが好きで、いろんなゲームの噂が入ってくる中で、大地がヒロスタのことを知らないわけがない。情報を見てプレイしたいと思っていたが、近くにプレイできる環境がなくフラストレーションを溜めていた。
「そらよかった。じゃあ、うちが紹介するまでもないね」
「お前はできんの?」
「まあ、それなりには」
「対戦しようぜ!」
まるで少年のようなキラキラした瞳を美咲に向けながら大地は筐体の方へ向かう。美咲はそれに呆れながらも、嬉しそうな顔を浮かべてついていく。
「剣崎くんは初プレイやろ? いくらうちがエンジョイ勢や言うても、さすがに実力差あると思うで?」
「ハッ、この剣崎大地を舐めてくれるなよ。プレイはしたことないが、ホームページと対戦動画を見てイメトレはしてたんだ。お前こそ、初心者相手に負けちまったときの言い訳を考えておいた方がいいかもしれないぞ?」
「自信満々やなあ。まあ、そういうことならやろか」
ヒロスタは一対一の横スクロール対戦アクションゲームである。装備を変更したりステータスを上げたりといったことをしない、自分の腕だけを頼りに戦うゲームとしてゲーマーの間では今大流行中なのだ。
大地と美咲は向かい合うように筐体の前に座る。コインを入れ、ゲームを起動した。
「もう使うキャラクターも決めてるんだよ」
ゲームは初めてでもスティックを操作する手は慣れている。カチャカチャと十字スティックを動かしてキャラクター選択画面へと移る。全部で十二体のキャラクターがいる中、大地は迷わず『オセロ』というキャラクターを選択した。
オセロは二足歩行のイヌであり、耳の色が左右で白と黒と違う。赤いマフラーを首に巻き、大きな手袋と長靴を履き、手には木刀を持つ。
「へえ、なんでオセロなん?」
「好きだったんだよ、クリスタルハート」
『クリスタルハート』というのはゲームのタイトルのことを指している。自分の住んでいた世界が暗黒に覆われてしまった主人公が世界を取り戻すためにクリスタルハートを求めて様々な次元を冒険するというものだ。オセロは主人公であるユートと共に旅に出る仲間であり、どうしてユートではなくオセロが選ばれたのかは分からない。
「さすがゲーマーやね。他のキャラも知ってるん?」
「当たり前だろ。知らないキャラはいないぜ」
大地の自慢げな発言に「ほーん」と相づちを打ちながら美咲もキャラクター選択を終える。
「リリーか」
「かぁいいやろ。うち、この子大好きやねん」
「原作も知ってんの?」
「もちろん未プレイやで」
さすがはエンジョイ勢である。浅く広いの典型的だった。
リリーは『魔女っ子リリー』というゲームの主人公だ。赤茶色の長い髪をした女の子で格好は誰もがイメージする魔女そのもの。手にはホウキを持っている。魔法学校が舞台のそのゲームの中でリリーは精霊魔法を使って様々な問題を解決していく。このゲームでも精霊魔法を駆使して戦うキャラクターだ。
「最初に操作の練習だけしときや」
「……じゃあ、そうさせてもらおうかな」
ヒロスタは相手のライフをゼロにすることが勝利条件である。ライフは全キャラ一〇〇〇で統一されているが、キャラクターによって攻撃力や防御力が違うので与えるダメージは異なる。
下の方にライフ数値があり、その横に二つのゲージがある。上が切り札ゲージで下がガードゲージだ。切り札ゲージは試合中に一度だけ使える超必殺技を使用するためのもので、ガードゲージはガードをし続けると減っていくゲージ。このゲージがなくなるとスタン状態になり一定時間動けなくなる。
操作としては通常攻撃、必殺攻撃、掴み技、ジャンプ、ガードの五つのボタンと十字スティックがあり、それらを使って戦っていく。
カチャカチャとボタンを押してオセロを操作し、攻撃パターンを覚える。といっても、このゲームをするならオセロと決めていたし、そのために動画を見て勉強もしていたので、そこまで時間はかからなかった。
自分の中にあったイメージをそのまま操作できれば十分戦える。
大地は底知れぬ自信に満ちあふれていた。
「いつでもいいぜ。かかってこいよ」
操作練習を終えた大地は美咲を挑発する。どうしたものかと一瞬悩んだ美咲だったが、リリーを前進させる。戦略も何もない突撃である。
「舐めんなよ!」
オセロはガードをしてリリーの攻撃を防ぐ。
ヒロスタは直接攻撃が得意な近距離タイプ、魔法などで距離を取った戦闘を得意とする遠距離タイプ、そしてその両方を兼ね備えた遠近距離タイプがいる。オセロは木刀を駆使して戦うのでもちろん近距離タイプだ。
リリーは精霊を呼び出して戦う遠距離タイプと思われがちだが、ホウキによる近距離戦闘もできるので遠近距離タイプとなる。このゲームにおける行動ではなく、原作でも追い込まれるとホウキを使うことがあるのだ。
「さすがにそう上手くいかんかあ」
攻撃を弾いたオセロはそのまま攻撃にシフトする。攻撃力が低い代わりにコンボを繋げてダメージを与えていく戦闘スタイルのため、一発目を当てることが重要だ。それは相手も分かっているので当たらないようガードの構えに入る。
が。
「甘いなッ」
ガードは様々な攻撃からダメージを受けないようにする手段だ。とっておきである超必殺技の場合はダメージ軽減となる場合もあるが、それでもあらゆる攻撃手段に対して使える。しかし、その一見無敵ともいえるガードを崩す方法が二つある。
一つ目はさっきも説明した通り、ガードゲージをゼロにすること。それにより相手をスタン状態にできるため、次の攻撃が断然当てやすくなる。そうならないため、ゲージが減ってきたら回復するまでガードは控えるというのが常套手段である。
そして二つ目は掴み技だ。
掴み技はガードしている相手にも有効となる攻撃手段。相手に与えるダメージこそ低いが、体勢を崩せるだけでも十分だろう。
「あ、しまッ」
美咲も大地の考えに気づいたが、既に遅かった。
オセロはガード状態のリリーを掴み、そのまま木刀で相手を叩く。ダメージを受け、よろめいているリリーに追い打ちをかけるように通常攻撃によるコンボを浴びせた。
ライフ数値は減少するにつれて表示している色が変わる。一〇〇〇~六〇〇は青、五九〇~三〇〇は黄、二九〇~一は赤色となる。オセロの連続攻撃によりリリーのライフカラーは既に黄色になっていた。
「このまま一気に決めるぜッ!」
だいたいのキャラクターがそうだが、必殺攻撃は溜め技が多い。
攻撃を溜めれば溜めるほど威力が増す、その代わりに隙が大きいというもの。攻撃方法はキャラクターによって変わるが、オセロの場合は木刀での一閃。ただ相手に向かって突撃するというおまけ付きだ。つまり、相手と離れていてもある程度ならば詰められるということ。
オセロの一撃がリリーに直撃する。
それにより、リリーのライフカラーは赤へと切り替わる。
「よし!」
オセロは攻撃力が低いがコンボが続く、それでいてスピードがある。リリーも決して遅いキャラというわけではないが、それでもスピードだけならばオセロが上回る。リリーに近づいてさらなる攻撃を浴びせようとした。
まさにその時。
「忘れてへん? うちにとっておきがあるってことを」
しまった。
大地がそう思ったときには既にリリーは超必殺技を発動させていた。
超必殺技とは必切り札ゲージが一定以上溜まっていることで、一試合に一度発動することができるとっておきの技だ。キャラクターによって発動条件は異なるが、そのどれもが一気に形勢を逆転させることができる能力を持っている。
「さあ、こっからが本番やで!」
リリーの超必殺技は『モンスターゲート』。
精霊魔法により使い魔を召喚し、相手を攻撃する。それだけを聞くと別段強くは思わないが、切り札ゲージが溜まっていればいるほど召喚するモンスターの数は増え、最大五体による四方八方からの攻撃を行う。そのモンスターは三度攻撃を当てなければ消滅しないため、最悪の場合そのまま敗北まで持っていかれる。
そして、超必殺技発動時のリリーの切り札ゲージはマックスだった。
「なんだこれ」
アニメーション演出が入る。
リリーがホウキを上に掲げると空中に大きな魔法陣が浮かび上がる。それがピカッと光り、そこから五体の使い魔が現れる。使い魔のコントロールは自動で行われ、この間もリリーは自由に動くことができる。加わって攻撃するも良し、退いて様子を見るも良し。
ライフが少ない美咲はもちろん下がって様子を見る。
オセロを囲んだ使い魔が四方八方から攻撃を仕掛けてくる。通常有り得ることのない攻撃に大地は動揺し、一気にライフを削られる。何とか攻撃の隙を見て使い魔に攻撃を当てる。ようやく三度目の攻撃を当てたところで使い魔は消滅したが、オセロのライフカラーも赤へと変わっていた。
「これで勝負はわからへんで?」
美咲は不敵に笑う。
確かにオセロとリリーの残りライフは同じくらいだ。攻撃一つで逆転できるだろうし、一瞬の油断が敗北に繋がる。
「それはどうかな」
「なんやて?」
「忘れるなよ。俺にだって奥の手があるってことをよォ!」
切り札ゲージは相手に攻撃を当てる、または攻撃された際に溜まっていく。試合終盤になればなるほど必然的にゲージは溜まっていく。まして、さっきまでオセロは使い魔による包囲攻撃を受けていた。
切り札ゲージはマックスだ。
「行くぜ、リベンジバースト!」
オセロの超必殺技は『リベンジバースト』。
切り札ゲージが半分以上溜まっていれば発動でき、自分のライフが少なければ少ないほど相手に与えるダメージが大きくなる技だ。さらに攻撃後、追加ダメージを与えることがある。それは切り札ゲージが溜まっているほど確率が増す。そこに関しては運次第だが、一発の攻撃だけでも十分に逆転を狙える技だ。
ただし、一つ弱点がある。
それは攻撃が非常に当たりにくいということだ。オセロが木刀を一振りし、それが相手に当たればアニメーション演出による攻撃が起こる。
攻撃の発動と同時にオセロが木刀を振るう。このときに相手に近づいていることが最低条件であるが、さすがに遠くで発動するほど大地は馬鹿ではない。
しかし。
「甘いよ、剣崎くん」
リリーは咄嗟にガードする。超必殺技に対するガードの効果は様々だ。リリーのようなタイプであればガードそのものが意味をなさない。アニメーション演出が起こらない技であればダメージを軽減することができる。アニメーション演出が起こる技の場合、最悪攻撃が無効となることがある。
オセロの攻撃はその最悪の場合に当たる。
「これで終わりやで!」
オセロの超必殺技を防いだ美咲はそのままリリーで反撃に出る。しかし、防御され一瞬の動揺を見せた大地だったが、すぐに切り替え、リリーの攻撃をガードで防ぐ。
そして、溜め技を繰り出し、リリーのライフをゼロにした。
「……あぶねえ」
間一髪、ギリギリの戦いだった。
「はへー、強いなあ剣崎くん。ほんまに今日初プレイ?」
「そう言ったろ」
「いや、まさかほんまに負けると思わんかったから。それに初心者の動きやなかったで」
「まあ、それほどでもあるかな!」
ガハハ、と大地は鼻を高くして自慢気に笑う。
美咲の戦闘内容に手を抜いている様子はなかった。初プレイである大地に花を持たせようというつもりもなかったはずだ。そもそも大地がそんなことをされて喜ぶはずがないし、それは彼と少し話しただけで察することができる。
「これなら極めればもっともっと強うなるかもしれんなあ」
「ハハッ、綾崎くらいの実力が集まってんなら程度が知れてるな」
「めちゃくちゃ調子乗ってんなあ」
有頂天になっている大地に美咲は呆れたようなツッコミを入れる。
そのときだ。
横の方の台から「負けた! やっぱ勝てねえか!」という声が聞こえてくる。大地がそちらに意識を向けたので美咲も見る。
「あれは?」
「同じヒロスタの台やで」
一人は大地と同じくらいの男の子。もう一人は明らかに歳下っぽい黒髪の少女。悔しがっているのは男の方なので少女が勝負に勝ったことになる。
「あの子が勝ったのか」
「うん。まあ、そこら辺におる人じゃ勝てへんやろうな」
「知ってんの?」
「うん。常連さんやで」
「ほう。しかも、さっきの言い方からして相当な実力の持ち主ってことだよな?」
「せやな」
「行ってくるわ」
大地がフンスと鼻を鳴らしながら少女の方へ向かっていく。
「あ、剣崎くん、さすがにそれは……て、聞いてへんか」
美咲の言葉など耳には入っていない様子でズカズカと進んでいく。
「失礼。俺とも対戦、いいですか?」
大地は少女の横まで行き、対戦を申し込む。
「はあ、いいですけど」
突然現れた不良チックな男に恐怖することもなく、少女は淡々とした声で返事をしてきた。
許可が得れたことで大地は少女の向かいの台に座る。
後ろにはさっきのプレイヤーを含めた数人のギャラリーがいる。ボソボソと何かを話しているがよく聞き取れない。微かに聞こえてくる声から察するに、無謀な戦いを挑むなあの野郎ということっぽい。
そんなことを言われれば大地は尚燃える。
「ほんまにええの? 今日はうちに勝って気持ちよく帰った方がええんとちゃう?」
「強いと言われるこの女の子に勝って気持ちよく帰るから問題ない」
「……まあ、ええけど」
美咲は諦めたように言って、一歩下がる。
コインを投入し、キャラクター選択を済ませる。大地は変わらずオセロ、相手はスカーレットというキャラクターだ。
「またオセロなん? 他のキャラ使ってみたりせんの? ぶっちゃけ、オセロはキャラの中やとあんまり強くない言われてるけど」
「関係ないね。俺は自分の好きなキャラを極めて勝つのが好きなんだ。この先もこのキャラ以外を使う予定はない」
「そういう信念もええけど、遊び心くらいは持っといてもええと思うけどなあ」
スカーレットは十二体いるキャラクターの中でも上級者向けのキャラクターだ。操作が難しい分、強いとされている。それにオセロで対抗するのはギャラリーからすれば無謀そのもの。
しかし、大地はそんなことお構いなしに戦いを挑む。
試合のゴングが鳴る。
「行くぜッ!」
そして。
物語の始まりへと繋がるのだ。