オーエンは部屋の前でディグリス副魔法長を待った。ローブに付いたフードをしっかり被り、なるべく前髪で顔を隠して腰にはベルトポーチとローブで隠れているが、背中にリュックを背負っていた。切らずに放置していた髪は三つ編みにして肩から流した。魔法省に入る時に杖継承の儀式で今まで誰も継承出来た者がいない月の杖。まぐれか分からないが、継承してしまったので手に持っている。白銀の夜にしか現れたない銀鹿のツノで作られた貴重な杖で、満月の夜は特に力を発揮すると言われているが、試したことはない。部屋から出ないし夜は毎回寝落ちしない限りは同じ時間に寝ているからだ。いつも書類などを届ける時に使っているクマやうさぎのぬいぐるみはリュックに入っていた。
「おまえが待っているとはな、魔法を使う準備をしていたが、必要なさそうだ」
「おっおおはようございますです。ディグリス副魔法長。
でっ出来ればしばらく外はご勘弁くっくだください」
「考えておこう」
「どっ、どこの隊のおっ応援でしょうか?」
「言っていたなかったか。第1騎士団だ」
「うっ、嘘ですよね。無理です帰ります。さようなら」
回れ右をして部屋にオーエンは戻ろうとした。第1騎士団は王族である第3王子が騎士団長を務める。騎士団の中で1番恐ろしいとされる騎士団だ。王族は獣人である。騎士団は1~20まであり、人間やエルフ族、魔族など様々な種族で構成される。魔法省もだ。オーエンは妖精族。ディグリス副魔法長は魔族。魔族の特徴は褐色黒髪で、妖精族は羽と髪色が白銀でありオーエンは白銀の髪に紫の髪が混ざっている。エルフ族は尖った耳と金髪か緑色の長髪である。獣人は獣姿と獣人姿を使い分けることが出来るが獣姿は伴侶にしか見せない。
「待て、オーエン。魔法で無理やり連れて行かれるか、おまえに触れておまえが嫌がる方法で連れて行くか。どちらか選ばせてやる」
オーエンは自らに結界を張ってまで他人に体を触らせない。西棟の魔法長と副魔法長だけは理由を知っている。同じ魔法省で働く者には魔法を使うことは魔法長と副魔法長以外は禁止されている。どちらを選んでも地獄だ。
「ふっ普通に、一緒にいっい行きます」
ディグリス副魔法長に隣を必ず歩くように言われ、オーエンは足取り重く騎士団練習場に向かった。