「春馬君は
「……」
「キングの使いだと言えば……鼠神の奴ら、喜んで
そう言いながら寛は春馬にバットを手渡してくる。バットの表面には梵字で退魔の
「寛さん、ありがとうございます」
春馬は再びバットを受け取った。寛が言う通り家族の問題。自分で決着をつけなければならない。春馬が緊張した
「なあに、心配すんな。小夜を護衛に付けてやるから」
「わたしは春馬のボディーガードなんかじゃないよ」
小夜は鋭い口調で反論し、春馬をちらりと見る。
「ねえ、春馬。自分の身は自分で守ってよ」
「う、うん……」
春馬はバットを見つめながら頷いた。隣では
「小夜……そなた、デッドマンズハンドの活動で春馬が傷ついたらどうなるかわかっておろうの?」
「ハイハイ、わかってるよ。わたしを喰らうんでしょ」
小夜も禍津姫を睨み返している。二人のやり取りを見ていた寛はニヤニヤと笑い始めた。
「春馬君は二人の美女を
「兄さん、わたしたちは対話しに行くの。鼠神が
「ああ、おとなしく探しくれるならな」
「じゃあ、よけいなことを言わないで……あ、そうだ」
小夜は何かを思い出すと春馬の肩を叩いた。
「ねぇ、春馬。春馬のご両親にはわたしの家で勉強会をしてるって言っておいたから」
「え!? そうなの!?」
「うん。さっき、連絡したんだ。停学中に無断で出歩いたらもっと問題になるし、ご両親も心配するでしょ? 睡魔
確かに、停学処分の初日に夜遅くまで出歩いていたら両親は心配するだろう。春馬は小夜の気配りが嬉しく思えた。
「小夜さん、ありがとう。僕、頑張るよ」
「変に張り切らないでね」
「二人とも、そろそろ参るぞ」
禍津姫に促されると春馬はバットを肩に担ぎ、スーパーへ向かって歩き始めた。小夜と禍津姫は春馬の左右に並んで足並みをそろえる。
──僕は夏実を救うんだ。やってやる……。
春馬は静かに覚悟を決めて何度もバットのグリップを握り直す。バットを持って来店するなんて非常識だが、夏実を想う気持ちで良識をねじ伏せる。いつの間にか
春馬の右隣では黒いパーカーを着た禍津姫が艶やかな黒髪を街灯や月明かりに
そして、春馬の左隣りでは白いパーカーを着た小夜が栗色の髪を夏の夜風に揺らめかせて歩いている。小夜は一度だけ大きく伸びをすると真っすぐに前を見つめた。
× × ×
「誰もいないじゃん……」
店内へ足を踏み入れた
「小夜さん、さっきの自動ドアに『営業は20時まで』って書かれていたんだ。お客さんはともかく、店員さんがいないって、おかしいよ……」
「そうだよね。もしかしたらわたしたちを怖がって逃げたのかも……」
「いや、
小夜の言葉を
「
「
熱という単語を聞いて、春馬は生物の授業で習った『ピット
「じゃあ、見えないだけでここには……」
春馬が話しを続けようとしたとき、フッと店内の電灯が一斉に消えた。電灯だけではない。冷蔵庫や換気扇までもが同時に停止する。
「誰かが、ブレーカーを落としたようね」
小夜は腰のベルトに取り付けたホルダーから三段警棒を取り出し、シャフトを伸ばして身構える。春馬も慌ててバットのグリップと中心部を握り、ゆっくりと前へ進んだ。やがて、小夜は店内へ向かって呼びかけた。
「
小夜の声は店内全体へ響き渡った。しかし、答えは返ってこない。
「どうして……」
小夜が焦り顔になると隣で春馬が首を傾げた。
「えっと、小夜さん。小夜さんは九兵衛さんを知っているの?」
「……知らない」
「じゃあ、呼びかけても無駄じゃないかな。一度戻って、九兵衛さんを知っている寛さんに……」
「春馬、何を言っているの? 兄さんだって九兵衛さんを知らないよ」
「?? だって今、協定って……?」
「それは……鈴宝院家の先代さまが協定を結んだから」
「????」
春馬は意味がわからなかった。寛は「九兵衛に会いに行くんだろ?」と、九兵衛を知っている口ぶりだった。何が何だかわからない。すると、禍津姫が口元に笑みを浮かべた。
「ふふふ。九兵衛とは鼠神の統領を指す名じゃ。
禍津姫は面白そうに語りながら周囲を見渡した。月明りと避難経路を示す緑の非常灯がぼんやりと辺りを照らし出している。店内は思ったより広く、雑貨売り場や生鮮売り場の奥には農機具を展示販売するコーナーまであった。
「これで隠れているつもりとは……
禍津姫はため息まじりに
「春馬、少し力を解放してもよいか?」
「えっ!?」
「ダ、ダメ!! 春馬、話し合いに来たんだよ!!」
小夜が慌てて割って入る禍津姫は呆れて眉根をよせた。
「小夜、そなたも
「こ、これは護身のためで仕方なく……」
「ふふふ、安心いたせ。わらわの存在を知らしめるだけじゃ」
「知らしめる?」
「さよう。鼠神は根がとても臆病で警戒心も強い。だから、わらわがここに
「それって、逆効果でしょ。逃げ出しちゃったらもうどうしようも……」
「いや、わらわの呼びかけだけは絶対に無視できぬ。わらわの呼びかけに応じねばどうなるか……
禍津姫は再び春馬を見た。
「春馬、夏実を救うためには鼠神の力が必要なのであろう? ここで逃げられれば、元も子もないぞ」
「わ、わかったよ。でも、どうやって禍津姫さんの力を……?」
考えてみれば、確かに春馬は禍津姫と
「願うがよい。わらわの名を呼び、
禍津姫の隣では小夜が不安げにこちらを見つめている。春馬は一瞬だけ
「禍津姫、僕の願いを叶えよ。僕は力の行使を許す!!」
「……相分かった……」
春馬が呼びかけると禍津姫は嬉しそうに目を細めた。