春馬たちを乗せた黒いハイエースが夜の幹線道路を進んでゆく。
「ちょっと、
「仕方ないじゃろう。わらわにとって
「
「そうですね、
「いっぱいスピードを出しても大丈夫な道路ですよね!? ボク、ちゃんと知っています!!」
「ふふふ。呪縛者の末裔よ、高速道路ならわらわも知っておるぞ」
「禍津姫、臣さま相手に調子に乗らないで!!」
「あまり怒るでない。小夜はうるさいのぅ……」
みんながはしゃぐと車内の喧騒は激しさを増してゆく。それもそのはずだった。小夜と禍津姫は性格が噛み合わないが、お互いを補い合うところもある。本人たちは認めないだろうが
臣も初めて目にする景色に感激して睡魔に質問を重ねている。ネットやテレビで外の世界を知ってはいても、実際に目にした感動はやはり大きい。見るものすべてに心を奪われていた。
車内はまるで観光にでも向かうような雰囲気で、これから
──みんな、夏実を救うために来てくれた。そして、そのなかにはちゃんと僕もいる……。
助手席に座る春馬は後ろで交わされる会話に耳を傾けながら、その輪の中にいる自分を誇らしく思っていた。
──それにしても、ここって……?
辺りの景色に気を配っていた春馬は運転席へ顔を向ける。
「寛さん、どこへ行くんですか?」
「ん?
タバコが吸えないためか寛は少し苛ついている。春馬は声を小さくして質問を続けた。
「いわくつきの洋館でもあるんですか? それとも廃屋とか?」
「いや、あるのはスーパーだ。
「スーパー? そこに鼠神がいるんですか?」
「ああ。いっちょ前に人さまへ野菜を売って経済活動をしてやがる。いけ好かねぇだろ?」
「……」
「鼠神は外見じゃ人間と区別できない。だから簡単に人間社会に
「そうなんですか……でも、区別できないならどうやって見分けるんですか?」
「そりゃ、春馬君や
「下郎!! 大蛇のお嬢ちゃんとはわらわのことか!?」
突然、後部座席から禍津姫の咎めるような声が聞こえてきた。
「春馬が隣にいるからと思うて調子に乗るでない。わらわをからかうなら……」
「
小夜が禍津姫の口調を真似しながら笑ってみせる。禍津姫は「えっ!?」と目をパチクリとさせて
「さすがは『ふぁっしょんり~だ~』じゃ。やりおる」
「だから、ファッションは関係ないじゃん」
小夜が苦笑いを浮かべると禍津姫の口元もほころんだ。車内では誰もが笑顔になり、賑やかな会話はいつまでも続いた。
× × ×
車列が広域農道へ入ると道はだんだん物寂しくなり、人家の灯りがチラホラと見えるだけになった。目的地が近いためか車内は沈黙が支配するようになっている。
「こんな所にスーパーなんてあるんですか?」
春馬は沈黙に耐え切れなくなって
「……」
さらに進むと田園風景のなかにスーパーが見えてくる。時刻は夜の9時を回っているが店内の電灯はまだついていた。店内に人影は見当たらないが、駐車場には店員のものと
「あ~やっと着いた!!」
30分ほどの運転だったが、寛にとってはタバコの吸えない窮屈な時間だった。車外へ出るなり大きく伸びをしてタバコに火をつける。そして、タバコを咥えたまま降りてきた
「なあ、ハニー。俺たちが来るってことは
「ええ。これから行くって伝えたわ」
睡魔は携帯灰皿を差し出しながら答えた。寛は「サンキュー」と言いながら携帯灰皿を受け取り、改めて『
「
寛は怒りを抑えて不敵な笑みを浮かべる。睡魔はそんな寛を
「うわぁ……」
夜空には無数の星々が
「夏の星空はこんなにも綺麗だったのですね。
稲邪寺では夏場、巨木の葉が空を覆い隠してしまう。樹々《きぎ》の葉の
「すごいなぁ……今にも降ってきそう……」
臣は角度を変えて何度も空を仰ぎ見る。臣の瞳には淡い光の
「わらわも、ゆるりと星空を眺めるのはいつぶりか。確かに、
禍津姫は
「禍津姫さん?」
「いつの世も、
「……はい」
禍津姫が臣を
──考えてみれば……臣君は稲邪寺に、禍津姫さんは鏡の中に、二人ともずっと囚われていた……。
そんなことを考えていると睡魔の落ち着いた声が聞こえてきた。
「申し訳ありませんが臣さま、そろそろ……」
睡魔は臣に車内へ戻るように促している。