「
春馬と小夜が
「春馬君、いらっしゃい」
「睡魔さん、突然すいません」
春馬が頭を下げると小夜はその背中をポンと叩いた。
「緊張しすぎ。じゃあ、わたしは着替えてくるから。また後でね」
「う、うん」
小夜が部屋をあとにすると春馬はたった一人で臣や睡魔と向き合うことになった。
──な、何から話せば……。
春馬は気の
「春馬さんとこんなにも早く会えるなんて、ボクはとっても嬉しいです!! えっと。今、ボクは学校に通う準備をしててですね……授業のこととか、友達の作り方とか……いろいろ教えてください!!」
「僕が臣君に教えるの!?」
「はい!! どうか教えてください!!」
臣は友達が遊びに来て喜ぶ子供のようだった。無邪気な姿を見ていると、春馬は本来の目的を忘れてしまいそうになる。
「あ、あの。臣君、僕が来たのは……」
春馬が恐る恐る切り出すと、それまで笑顔だった臣は真剣な顔つきになった。
「……わかっています。
「……」
臣は春馬が来た理由を知っているかのような口ぶりだった。春馬は機先を制されて
小夜はデニムのショートパンツに白の半袖パーカーという服装に着替えている。寛はジャケット姿で、飲み物を乗せたトレーを持っていた。
「キング、春馬君、お待たせ~♪」
寛は得意げに進み出て飲み物を振るまった。
「はい、春馬君には大人のブラックコーヒー。そして、ハニーと小夜にはストレートティー。キングには……蜂蜜をガッツリと使った特製のアイスレモネード!!」
「やったー!! 寛さん、ありがとうございます!!」
「炭酸水も持ってきたから、レモンスカッシュにもできちゃう優れモノ♪」
「本当だ~!! 寛さん、凄いです!!」
臣は目を輝かせてパチパチと拍手をする。おどける寛と嬉しそうにはしゃぐ臣。二人の雰囲気からは、これから深刻な話をする気配が
「あなた、臣さま、春馬君が困ってますよ」
「ああ、そっか。悪い、春馬君」
「も、申し訳ありません……春馬さん」
二人が
「あの……
「え? 何を言ってるの?」
小夜は怪訝そうに春馬の顔を見つめた。
「禍津姫は春馬の目のなかにいるんだよ。わざわざ呼ばなくても、ちゃんと聞いてるよ。それに、必要だったら出てくるでしょ」
「なんか、気紛れな猫みたいだね」
春馬はフラリと現れては消える街角の猫を想像した。禍津姫も、ふいに現れたかと思えば、断りなく消える。
「猫って言うより、蛇だけどね」
「そっか……そうだよね」
小夜が指摘すると春馬は苦笑しながら頷いた。気紛れな禍津姫は今もどかで聞き耳を立てている……そんなことを考えていると臣はさっそく口火をきった。
「実はもう、夏実さんと会ってきました」
「!?」
春馬が思わず身を乗り出すと臣は落ち着いた口調で続けた。
「正確には『バンテージ・ポイント』という能力を使って、夢の中で夏実さんを見てきました」
『バンテージ・ポイント』とは、寝ている間に
臣の説明によれば……『バンテージ・ポイント』を使えば、シチュエーションコメディでも観ているように他人の夢を覗けるという。
「そ、それで……夏実は?」
「結論から言えば、夏実さんは夢の中に囚われています。夢の中で『同じ毎日』を過ごしていました」
「同じ毎日?」
「はい。春馬さんの前で昏倒した一日を繰り返しているんです」
「どうして、そんなことに……」
「それは、この事象の元凶が
臣は会話の途中で辛そうに眉を顰め、俯いてしまった。この先を口にするのを
「臣君、教えて下さい!! 喰魂師ってなんですか!?」
「そ、それは……」
「キングが言い
言い淀む臣の代わりに寛が進み出た。
「春馬君、
「いえ、知らないです……」
「まあ、
寛は忌々しい顔をしながら喰魂師について説明した。
「本来であれば魂の浄化や成仏を祈念するはずの人間が、何かの拍子で喰らう側に回る。それが
「じゃ、じゃあ。夏実は毎日、連れ去られる恐怖と絶望を味わっている……?」
「ああ、そうだ。喰魂師は夏実ちゃんの魂を喰らって喜んでやがる」
──なんで、夏実がそんな目に……。
春馬は怒りで全身の血が逆流し、視界も
「
寛は春馬の肩へ手を置いた。
「その前に喰魂師のクソヤローを見つけ出して、徹底的に制裁を加えるんだ」
「……はい。寛さん、その
春馬は静かに尋ねているが、目つきは人を
「喰魂師は妖怪の
「で、でも!! それじゃあ、夏実が……」
「春馬君、焦るなよ。同じ『神域の住人』ならすぐに見つけ出せるさ。
『蛇の道は蛇』と言われて春馬は瞳を大きく見開いた。
「そっか!!
春馬が禍津姫の名前を口にした瞬間だった。
「それはやめておいた方が賢明じゃ」
「「「!!!???」」」
いつの間にか会議室の椅子に
「禍津姫さん、どうして喰魂師を探してくれないんですか!?」
春馬にとって喰魂師は復讐の相手。禍津姫が探すのを嫌がるとは思えない。春馬が席を立って詰めよると禍津姫は申し訳なさそうに眉根をよせた。
「それは、わらわの力が強大過ぎるからじゃ」
「それはどういう……」
春馬が要領を得ずにいると
「春馬さん。禍津姫さんは……つまり、
「キングの言う通りだ。喰魂師のヤツはびびって逃げちまう。そうなったら、もう手に負えない。そうだろ?」
「春馬の
「それじゃあ、結局……」
春馬が途方に暮れてうなだれると臣の凛とした声が響いた。
「そこでです!! 『
──ソジン??
春馬が顔を上げると臣はニコニコと微笑んでいる。興味を
「ほう。
「はい。鼠神たちとは協定を結んでいます。きっと助けになってくれるはずです」
「それは
「鼠神のみなさんにはデッドマンズハンドの『狩りの対象』にしないかわりに、何かと協力してもらっています。特に、ボクの『バンテージ・ポイント』では知り得ない情報をもたらしてくれるので、とても便利なんです」
「ふむ、そういったカラクリか。わらわと春馬が交わした
「やった~睡魔さん、禍津姫さんに褒められましたよ!!」
「臣さま、よかったですね」
臣が嬉しそうに隣を見上げる睡魔も静かに微笑んでいた。
「なるほどのぅ……」
禍津姫は納得した様子で春馬を見た。
「春馬よ、安心いたせ。鼠神は数も多く、神域では情報通として名が通っておる。きっと喰魂師の居場所も知っておろう」
「ご、ごめんなさい。臣君、禍津姫さん……
「ああ、春馬さんには説明不足ですよね。失礼いたしました」
臣は鼠神について語り始めた。
『
鼠神は『
しかし、いつのころからか鼠神の一部が神域を離れ、人間に
「人間さまの真似をして社会に
「寛さん、口を慎んで下さい。協定を結んでいる相手なのです」
「……わかりました、キング」
不満そうな寛は横目で臣を確認しながら春馬の耳元へ口を近づけた。
「春馬君、鼠神の言うことが全部本当とはかぎらない。必ず疑うんだ」
「は、はい」
春馬が頷くと寛は立ち上がってみんなを見渡した。
「じゃあ、
「は、はい!! 緊張しますけれど、頑張ります!!」
臣が元気に答えると寛は満足そうに微笑んで部屋を出ていった。
「それでは、みなさんと一緒にお出かけですね!! ボク、初めて
よほど嬉しいのだろう。臣は期待で目をキラキラと輝かせている。
「睡魔さん、ボクはとっても楽しみにしていたんです!! 小夜さん、春馬さん、禍津姫さん、よろしくお願いします!!」
臣は頬を紅潮させて早口になる。そうかと思えば、よく