日本の神話を記した『古事記』や『日本書紀』は物語る。この世界は神の住む『
人間が神の恩寵を得るためには厳しい試練に耐えねばならず、時には
人間は神々の争いや気まぐれに右往左往するばかりで、死すら永遠の安らぎではない。生を
──どこまでも不公平でクソな話だ。
そう思いながら
臣は春馬が医務室へ運ばれると部外者を離席させて禍津姫と何事かを話し合っている。寛は護衛のために同席しているが内容までは聞こえてこなかった。禍津姫と打ち解けたのか、臣はときおり微笑みながら会話している。古代の神獣に臆する様子は
──アレは何だったんだ……?
寛は臣が見せた残忍で
──キングは禍津姫の復活を喜んでいたのか? それとも、もっと他に何か……。
考えこんでいると臣の呼ぶ声が聞こえてくる。
「寛さん、こちらへ来ていただけますか? 禍津姫さんとの話が終わりました。とっても有意義でしたよ。そろそろ、春馬さんを家まで送ってあげてください」
「わかりました、キング。でも……」
寛は診療ベッドに近づいて春馬を見下ろした。春馬の目覚める気配は感じられない。すると、春馬を挟んで向かい合う禍津姫が口を開いた。
「心配せずとも間もなく目覚める。寛とやら、春馬はわらわの
禍津姫は寛を
「うぅ……」
小さな呻き声とともに春馬が
「春馬君? どうした?」
「春馬は眠ったままじゃ……わらわが春馬を操り、向かうべき場所まで連れて行こう。案内いたせ」
「……なんだと??」
寛は訳がわからない。眉を
「寛さん、これは
「臣の申す通りじゃ」
「じゃ、じゃあ……」
寛は
「ふふっ……」
禍津姫は緊張する寛を見て鼻で笑った。
「そなた、先ほどからわらわを
「ち、違うのか?」
「それは、そなたら人間が勝手に思い描くわらわの虚像じゃ。わらわは理由なく暴れまわったりはせぬ」
禍津姫はどこか寂しげに目を細めた。
「まあ、もっとも……。春馬がそう願うのであれば、わらわは再び暴虐の神となってこの世に
そう言いながら禍津姫は虚ろな春馬を見た。
「春馬と
禍津姫は血管が浮き出た春馬の首筋に白く細い指先を
「そう、今しばしの辛抱じゃ……」
禍津姫は自分へ言い聞かせるように呟いた。