春馬たちは
──
入り組んだ通路と赤い蛍光色の光は春馬を不安に駆り立てる。このまま進むと
「少し、お待ちください」
臣は白衣の
「こ、これ……」
春馬はひんやりと
魔法陣の中央には巨大な鏡が置いてあった。鏡は数メートル四方もあり、
不思議なのは、その鏡が何の支えもなく立っていることだった。支柱があるわけでも、天井から吊り下げられているわけでもない。バランスを取って自立する鏡。それは宙に浮くかのようで不気味だった。
「これが、
臣は鏡の前へと向かう。春馬たちは臣を中心として鏡の前に立った。
「えっ!?」
鏡を目にした春馬は再び驚いた。一見すると鏡の表面は
「それでは、
「ギー、ソス、ソトゥ。デー、ダ、ソトゥ。ジャ、クソン、デナイ」
スマホは理解不能の言語を流し続けている。春馬は疑問に駆られて隣の寛を見上げた。春馬の視線に気づいた寛は鏡を睨んだまま答えた。
「
「……」
音声は頭の奥深くに直接語りかけてくるようで春馬の心はざわついた。しばらくすると突然、鏡の表面に波紋が広がった。まるで、
「あの鏡には音声認識の電子ロックがかかっているようなモンだ。見ろ、キングがロックを解除しようとしているから、入り口に集まってきてやがる……」
「!?」
寛の視線を追いかけた春馬は緊張で身体が硬直した。鏡の表面には無数の赤い目が現れている。どれもが蛇のように瞳孔が細い。『猜火の鏡』には
「ひ、寛さん。もし
「失敗したら? ここが俺たちの棺桶になる……だが……」
寛はジャケットを脱ぎ捨てる。その姿を見て春馬は思いきり目を見開いた。寛はコルト・ガバメントの代わりに手榴弾を幾つも身に付けている。Dリングに繋がれた手榴弾。春馬にはそれらが本物に見えた。
「ただじゃ死なねぇ……」
寛はギリギリと歯を食いしばりながら鏡を睨み続けた。
× × ×
張りつめる緊張のなか儀式は佳境へと突入した。音声が途絶えると臣はスマホを袖へしまう。そして
「
臣は高らかに宣言して左手を振るう。親指から
鏡から出てきたのは蛇ではなかった。現れたのは腰まである
気品あふれる姿はこの世のものとは思えないほど美しくて神々しい。
「ふふふ。わらわを呼び出すとは、
落ち着いた声はゾッとするほど冷たく、精神を射抜く凄味があった。臣は女の圧倒的な存在感に
「呪縛者の名において命ず!! 八頭大蛇よ、『
臣は小刀を春馬へと向けた。
「ほう、次の転封はこの少年の両眼かえ?」
女は浮遊したまま春馬の前までやってくる。
「ウゥッ!!」
激しい痛みに春馬は呻き声を上げた。逃げたくても、なぜか身体の自由がきかない。女はそんな春馬を不思議そうに見つめた。
「なんと
女は春馬を見下ろしたまま首を傾げている。その光景を見て寛が叫んだ。
「おい、お前!! やめろ!!」
「うるさい、下郎」
女は寛へチラリと視線を送り、ゆったりとした動作で手を払う。それと同時に春馬はその場に倒れ、寛は入り口横の壁まで吹き飛ばされた。大きな衝撃音と共に寛は壁にぶつかり、落ちる。
「寛さん!?」
臣が寛に気を取られた一瞬を女は見逃さなかった。
「呪縛者の末裔よ。わらわを前にして、いささか不用心であろう……」
女が再び手を払うと今度は臣の小さな身体が吹き飛ばされた。
「……キ、キング!!」
よろめきながら立ち上がった寛が慌てて臣を抱きとめる。臣と寛は重なり合って倒れ、臣の
「ふふふ」
女は満足そうに微笑むと足元に転がる春馬へ視線を落とした。