一時間ほどたつと客間に
「よう、お二人さん。戻ったよ……ん?」
寛は春馬の左手で輝くリングに気づき、「ふふん」と鼻で笑う。すかさず、小夜が寛を睨んだ。
「な、何よ……?」
「別に何でもねぇよ……さて、
寛は両手を広げて振り返った。すると、睡魔に手を引かれて臣が客間へ入ってくる。その姿を見て春馬は目を見張った。
「に、似合いますか? ボク、この衣装が苦手なんです……」
「似合ってますよ臣さま。凛々しいお姿です。ね? 春馬?」
「う、うん。臣君、カッコイイよ!!」
小夜と春馬が褒めると臣の表情がパァッと明るくなった。
「睡魔さん、二人とも褒めてくれましたよ!!」
「よかったですね、臣さま」
臣が喜ぶと睡魔も微笑んでいる。なごやかな雰囲気になると寛がみんなを
「じゃあ、サクッと
「ちょ、ちょっと待ってください。僕はどうすれば……」
春馬は慌てた。
「春馬さんの役目は簡単です」
「……」
間近で見る臣は均整の取れた顔立ちと衣装が相まって神々しく見える。春馬が見とれていると臣は薄く微笑みながら説明を始めた。
「今から八頭大蛇との『
「たったそれだけ?」
「はい。問題はその後です。八頭大蛇は必ず
臣は春馬のパーカーの
× × ×
小夜は臣の説明に聞き入る春馬を眺めている。『わたしが春馬を
「リング……本当にあげたんだな」
ふいに、寛が話しかけてきた。兄は妹の心境を
「春馬君、喜んだだろ?」
「……まあね。わたしが持っているより、きっと役に立つから」
「ふぅん。小夜、本当にそれだけか?」
「……」
小夜がチラリと視線を動かすと、寛は
「女心は複雑なの。あなたには理解できないわ」
「なんだよ睡魔。俺にだって少しぐらい女心はわかるよ」
「さあ……どうかしらね」
睡魔は臣を見つめたまま淡々と話す。やがて、その
「あなた……
「そうか……わかったよ、ハニー」
「もし、あなたが
睡魔は寛の胸元へ視線を送る。寛のジャケットは以前より少し膨らんでいた。
「それができれば苦労しねぇよ。
「……嫌よ。
睡魔の
「兄さん、わたしも緋咲の女。逃げるのはイヤ」
「なんて女たちだ。
寛は呆れながらも少し嬉しそうに笑う。そして、視界に説明を終えた臣と春馬が映ると静かに決意を促した。
「終わったみたいだな……それじゃあ、本番だ」
「春馬君、大丈夫かい?」
「『名前』と『条件』を覚えるだけでしたから……大丈夫です」
寛が尋ねると春馬は気丈に答える。しかし、その顔には緊張が
「キング、春馬君は本当に大丈夫ですか?」
「はい。春馬さんは大丈夫だと思います。……あ、そうだ。まだ言ってないことがありました。
「え!? そうなんですか?? 僕はてっきり、みんなで行くものかと……」
「春馬君。万が一のとき、犠牲は少ない方がいいだろ?」
寛が肩を竦めながら言うと春馬はギクリとして固まった。
「なんちゃって。犠牲なんて出るはずがないだろ? 春馬君、冗談だよ♪」
寛はおどけた態度で茶化してみせる。しかし、春馬には冗談に聞こえなかった。一瞬だけだが小夜と睡魔の顔が
「では、そろそろ参りましょう。八頭大蛇が封印されている『
春馬の疑念をよそに、臣は先導して歩き始めた。