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第33話 今度こそ、馴れ初め

「たっだいまー!」

「今、戻ったぞ!」


 今度こそ、いよいよ!

 という、最高にいいところで。


 スパーンと思い切りよくふすまを開けて、月見つきみさんと夜咲花よるさくはながアトリエから戻ってきた。

 いや、ただいまって、月見さん。

 なんか、いろいろ間違ってますよ?


「いやー、それにしても、すっごいよねー。錬金魔法! 本当に、新しくアイテムを作れちゃうんだもん。クッキーもちゃんと味がするし、美味しいし。あたしも、魔法で食べ物作ったことあるんだけどさ、どれも見た目はそれなりなんだけど、全部味がしなかったんだよねー。魔法で作ったものっていうのは、そういうものなんだと思っていたんだけど。技術の差ってことなのかなー? あたしも、もう少し修行してみるよ! もーう、これなら闇鍋でも商品として売れるよ! 間違いない!」


 両手にクッキーの入った小袋を大量に抱えて大興奮の月見さんが、熱く語り始める。でも、視線は誰にも合っていないので、誰かに語り掛けているわけじゃなくて、あふれる気持ちが抑えきれないだけみたいな感じ?


 てゆーか。てゆーか。

 闇鍋? 商品?

 なんか、また、気になるフレーズが聞こえてきたんですけど!?

 ああ、でも今はやっぱり、月下さんたちの馴れ初めと元祖とか生みの親とかの方を先に聞きたい。

 だって、すっごいお預け食らってるし!



「少し、落ち着きなさいな。マリ……、月見」

「あ。月下げっか。久しぶりだね。元気だったー?」


 月下さんの正面に座って、板の間にクッキーの山を置いた月見さんは、ひらひらと片手を振った。

 ものすっごい、今更感!


「ええ。見てのとおりよ。あなたも、いろいろと元気そうで安心したわ」

「なあなあ、闇」

「いえ! まずは、二人の馴れ初めからお願いします!」


 たぶん、闇鍋とやらについて質問しようとしたんであろう紅桃べにももを押しのけて、あたしはオバチャンのように図々しく身を乗り出した。

 もうこれ以上は、待てん!


「そうだねー。せっかくお茶とお菓子があるんだもんねー。思い出話に花を咲かせるのも悪くないよねー。久しぶりの再会なわけだし」

「なんだかもう、そういう感慨はあまり沸いてこないのだけれどね……」


 とまあ、そんなわけで。

 夜咲花によって、ちゃぶ台の上にお茶会セットが準備され。

 板の間で本物の猫のようにゴロゴロしていたルナもいつの間にかやって来て。


 ちょっと狭いけど、魔法女子会がいよいよ開催されることとなった。

 一人だけ男子が含まれているけど、見た目的には全く問題ないし。

 むしろ、誰よりも少女だし。てゆーか、美少女だし。しかも、超絶可憐な美少女だし。見た目だけは。見た目だけは、ね。




「懐かしいわね。あの頃は、顔を合わせるたびに、月華つきはなと喧嘩になっていたわね」

「うーん、喧嘩っていうかさ。月下美人げっかびじんが一方的に突っかかってただけで、月華はどこ吹く風だったよね?」

「………………そうだったわねぇ」


 クッキーを齧りながらの月見さんの突っ込みに、月下さんは遠い目をした。

 あたしたち(ルナを除く)は、意外な感じで顔を見合わせる。


 月下さんと月華が、喧嘩?

 二人は、最初。

 仲が悪かったの……かな?


 しかも、月下さんの方が、一方的に月華に喧嘩を売ってたってこと?

 う。

 想像がつかない。


 だって、今の二人からは、全然そんな感じがしなくて。

 月下さんは月華のことを。

 手のかかる妹みたいに、しょうがないわねって見守っている感じで。


 月華は月華で、そんな月下さんのことを。

 月下さんのことは、一目置いている、みたいな?

 そんな感じがしないこともなかったような。気がする。



 あたしたちは黙って、二人の会話に耳を傾けた。

 闇鍋についての質問を封じられて、不満そうな顔をしていた紅桃も、今は吸い寄せられるように月下さんと月見さんを見つめている。



 一体、二人の間に何があったんだろう?


 逸る気持ちを静めるように、あたしは甘いミルクティーを口に含んだ。


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