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第31話 魔法工作

「こ、これは……。しいて言うなら、魔法工作……?」


 知らない人を連れ帰った時の、うちの引きこもり錬金魔法少女の反応をちょっとだけ心配していたんだけど。ほら、人見知り、しちゃわないかな、とか? こういうタイプ、夜咲花よるさくはなは苦手そうな気がしたし。


 でも。

 心配は、いらなかったみたいだった。


 いや、これはこれで、問題か?


 月見つきみさんの『サドル付き竹ぼうき』を見た夜咲花は、挨拶もしないうちから、おおおおおと不気味な唸り声をあげて打ち震えながら、あたしたちがいる玄関まですっ飛んで来た。そして、持ち主であり、お客さんでもある月見さんをそっちのけで、月見さんが手に持っているサドル付き竹ぼうきを、しげしげと観察しだしたのだ。

 さすがにこれには、月見さんも引くんじゃないかなー、って思ったけど。

 こっちも、心配無用だった。


「魔法工作?」


 月見さんは、夜咲花の非礼を特に気にした様子はなく、夜咲花が漏らした一言を拾い上げて、興味深そうに夜咲花のつむじを見下ろしている。

 月見さんは、結構背が高いのだ。で、夜咲花は割とちびっこだからね。


「これ、地上から流れてきた竹ぼうきと、自転車のサドル部分を魔法でくっつけてるよね?」

「そうだよ、よく分かったね。あー、そうか。君が錬金魔法少女かー」


 サドル部分を見つめたままの夜咲花の言葉を聞いて、月見さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに納得したように頷いた。

 本当に、よく分かったね?

 あたしは、こういう竹ぼうきが落ちてたのを、拾って使っているんだと思っていたよ。


「ところでさ、魔法工作と錬金魔法って、何が違うの?」


 月見さんが興味津々で、まだ顔を上げないままの夜咲花に尋ねた。

 まだ、お互いの自己紹介も済んでいないし、肝心の月下げっかさんとは一言も話していないというのに。

 チラリと月下さんの様子を伺う。

 月下さんは、いつものように板間の火のついていない囲炉裏のそばで、あきれたような顔をしながらもゆったりと微笑んで座っている。もちろん、ピシッと正座だ。

 なんか、いたずらな子供たちを仕方ないわねって見守っているお母さんのようだ。


 ちなみに。

 ルナは、二人のことは気にせず、板間にダイブしてゴロゴロしていた。

 紅桃べにももの方は、やっぱり、しょうがねぇなぁと言いたげな顔で夜咲花を見ている。お兄ちゃんのお顔だ。

 すっかり蚊帳の外なあたしたちを他所に、二人の会話は続いていった。


「全然、違う。魔法工作は、地上産……だけじゃないか。地上産でも闇底産でも、元からあるものを魔法で合体させただけ」

「うん。そうだね」

「でも、錬金魔法は違う。材料を錬金釜に放り投げて混ぜ混ぜして、一回魔素に分解する。それから、さらに念を込めて混ぜ混ぜして、まったく新しい物質に再構築しなおすのだ!」


 ふはははは!

 と、笑いながら夜咲花は顔を上げた。

 顔は月見さんの方を向いているけれど、視線は微妙に合っていない。

 あ、人見知りは完全に解除されてたわけじゃないのね。


「な!? それでは、まるで古の錬金術のようではないか!?」


 月見さんが、オーバーな仕草で驚いて見せた。

 もしかして、何か小芝居が始まっちゃっている?


「ふっ。闇底でただ一人の錬金魔法少女・夜咲花とは、吾輩のことだ!」

「あ、あなたが、かの高名な!?」


 吾輩って、夜咲花。

 高名って、いつどこで?


「師匠! このわたくしに、錬金魔法の御業をご教授ください!」

「うむ。よかろう。ついてくるがよい!」

「ありがたき幸せ!」


 セリフ回しには不釣り合いな、いそいそとした軽い足取りで、二人は板の間の奥になるアトリエへと旅立って行った。


 完。




 いや、完じゃなくて!

 完じゃない。

 完じゃないから!

 まだ、何にも終わってないから!


 えーと。

 とりあえず、いつまでも玄関先で立ち尽くしていてもしょうがないので、板の間に上がることにした。


「今更だけど、た、ただいまー」


 そういえば、まだ、『ただいま』も言っていなかったよ。


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