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第17話 昭和の魔法少女

「そう言えば、月下げっかさんの魔法少女コスチュームって、どんなのなんですか? 妖魔と戦う時は、変身するんですよね?」

「え?」



 パクチーテロから回復した紅桃べにももが、レモン味だという白いジュース(こっちは、本当にレモン味だったようだ。とどめの一杯じゃなかったことに少し安心した)で口直しをするのを見届けてから、あたしはふと思いついたことを月下さんに尋ねてみた。

 紅桃が半分死体だった時に感じた違和感。それに、関係するかどうかは分からない。ていうか、あの時感じた違和感は、今はもう遠くに行ってしまって、自分でもそれが何だったのかさっぱりだったりする。

 でも、やっぱり気にはなって。

 だから、とりあえず。

 疑問に思ったことを端からぶつけてみることにしました。そうしたら、いつかはあの違和感に辿り着くかも知れないじゃない?

 というわけで、レッツ・質問タイム!!



「えーとね? わたしが闇底に落とされた時は、もう高校生だったし、さすがに魔法少女はちょっと、ねえ?」

「高校生は、まだ少女ですよ! 全然、問題ないですって! それに、大人でも魔法少女のコスプレをしている人たち、いますし!」

「コス……プレ?」

 月下さんが、不思議そうに首を傾げた。

 あれ?

 コスプレ、知らないのかな?

 そんなに、専門用語ってほどじゃないよね? 

 もしかして、月下さんって深窓のお嬢様?

 そんな雰囲気ある!


「え、えーと、そういう趣味の人たちが、魔法少女だけじゃなくて、いろんなアニメとかゲームのキャラの衣装を着て集まるイベント? みたいなのがあって、大人も参加している……んですよ」


 説明が、ざっくりすぎたかな?

 でも、あたしもそんなに詳しくは知らないんだよな。

 そういうのがあることは知ってるけど、実際に行ったことはないし。親戚のおばさんに一人だけいるんだけど、あまり詳しくは教えてくれなかったし。


「大人が、魔法少女の格好をして、集まる…………? 魔女の集会ならぬ、魔法少女の集会? でも、大人ってことは、少女じゃなくて……? やっぱり、魔女の集会?」


 あ、あれ? やっぱり、説明間違えた?

 月下さんの想像が、何か違うところへ向かいつつあるような?


「うーん、よく分からないけど、わたしはやっぱり、このままでいいわ。このワンピース、お気に入りなのよ」


 板の間にお行儀よく正座したまま、月下さんはシンプルな淡い黄色のワンピースを見下ろした。

 うん、確かによく似合っている。

 月の花の精って感じ。

 まあ、本人が気に入っているのなら、それが一番なのかな。


「そっか、お気に入りなら、しょうがないですよね! えと、つまり。そのワンピースが月下さんの戦闘服ってことなんですよね?」

「戦闘服? …………そうね。そうかもしれないわ」


 月下さんは驚いて目をまあるくした後、ふふっと優しく笑った。

 不覚にも、ちょっとときめいた。


「あ、でも。よく考えたら、月華つきはなも普通のセーラー服ですよね。セーラー服の魔法少女は、まあ、ありだと思うけど、ちょっと、普通すぎるかなぁ。魔法少女のボスなんだし、もう少し、魔法少女っぽく魔改造してもいい気がするんだけど」

「いや、幹部だからこそ、下っ端の魔法少女との違いを見せつけるために、あえて普通の格好をしているってのもアリだよな」


 月の化身のような神々しい月華の美貌を思い出していたら、夜咲花よるさくはなとじゃれていた紅桃が話に加わってきた。


「うんうん。月華はチャラチャラした魔法少女コスに変身するまでもなく、すっごく強くてカッコいいし。それに、あの普通のセーラー服だからこそ、月華の魅力がより際立つんだよ!」


 そして、月華の話となれば、当然のように月華大好きっ子の夜咲花も参戦してくる。


「あ、でもさ。あのスカートの丈は、ちょっと珍しいよね? 膝下丈ってあんまり見かけないし。あれが、月華のこだわりなのかな? それとも、なんかお嬢様学校の制服とかなのかな? ミニスカートなんて、はしたない的に、校則でガッチリスカートの丈まで決められてる、みたいな!」

「お嬢な月華……。いいね、それ。お姉さまとか、呼ばれてたのかな?」

「呼ばれてそう! バレンタインに後輩の女子からチョコとかもらってそう」


 なんか、楽しくなってきたー!


「スカート丈が長いのは、…………の女子高生だからだと思うわ」

「え?」

「何?」


 夜咲花と盛り上がっていたら、月下さんの方から、ポソリと何か聞こえてきた。

 みんなの視線が、月下さんに集中する。

 月下さんは、あたしたちの誰とも視線を合わせないように、ふいッと顔を反らして、もう一度小さく言った。


「スカート丈が長いのは、昭和の女子高生だったからだと思うわ。昭和の終わり頃が、丁度、女子高生のスカート丈が膝下丈からミニ丈に移行する過渡期だったから」


 え? ええ!?

 なんで、月下さん、そんなこと知っているの?

 明後日の方を向いている月下さんをまじまじと見つめてると、紅桃がごくりと生唾を飲み込んで、勇者的発言をした。


「えーと、それを知っている月下美人も、つまりは昭和の女子高生だったってこと、か?」

「つ、月華は兎も角! わたしは、ギリギリ平成の女子高生です!」

「ギリギリってことは、生まれは昭和ってことだよな? なんか、納得したかも。道理で、たまに言うことが、ババむごっ!!」


 最後まで言い終わる前に、紅桃は板の間に倒れ伏した。

 月下さんが、板の間に転がったままになっていたパクチー味の赤いヤツを紅桃の口に思い切り押し込んだからだ。

 あーあ。

 まあ、でも、自業自得だよね。

 特に、最後に言いかけた一言。

 あれがなければ、パクチーは許してもらえたかもしれないのに。

 ご愁傷様、再びー。


「昭和の女子高生…………。なんか、レトロっぽくてカッコいい。あと、天然記念物っぽい感じもする」


 ほうッとため息を零しながら、夜咲花がうっとりと言った。おめめもウルウルしている。

 微妙に話題が逸れてないけれど、あたしはこれに乗っかることにした。

 とりあえず、月下さんと年齢の話からは少しだけ離れ……た?


「た、確かに! あ、そうすると、月華は昭和最後の魔法少女ってことになったりしない?」

「昭和最後の魔法少女! それいい! もう、そういうことにしよう!」

「だよね! どうせ、ここは闇底なんだし。誰も文句言う人いないだろうし!」


 夜咲花は天然だけど、あたしは兎に角、月下さんの話題から離れたい一心で、ことさら盛り上がっている振りをする。

 ちょっと、わざとらしかったかもしれない。けど、月下さん的には、気になるのはそこじゃなかったようだ。


「昭和が、レトロで格好いい? …………天然、記念物?」


 呆然とした感じでぶつぶつ言っている声が聞こえてくる。

 あたしは、聞こえないふりをした。

 うん、聞こえない。何にも、聞こえない。




 あたしが、月下さんに感じた違和感。

 それは、じぇねれーしょんぎゃっぷというヤツだった。

 年の離れた従姉のお姉ちゃんと話している時に、たまーに感じることがあったな。どこかで、知っている感覚だなーと思ったら、それか。



 その平成も、もう…………。

 いや、これは内緒にしておこう。

 月下さんの心の平安のために。


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