で。
晴れて、魔法少女になった、あたしなわけだけど。
えーと、これから。
あたしは、どうしたらいいんだろう?
学校からの帰り道、白くて光る透明な蝶々に遭遇して。
闇底とか言う、仄暗くて薄明るい、あの世でもこの世でもない狭間の世界に紛れ込んで。
まあ、所謂、神隠しというやつ?
で、その闇底で、半魚人みたいな妖魔に食べられそうになったところを、膝下丈セーラー服の月の女神様みたいな超絶美少女、
血の契約、とやらをして魔法少女になって。
で。
それで。
魔法少女になったあたしは、これからどうすればいいの?
何をして過ごせばいいの?
新入り魔法少女であるあたしこと、魔法少女☆
月華と、その相棒である真っ白い鳥さんの
あたしみたいに、闇底に迷い込んで妖魔に襲われている女の子を助けるために、常に闇底内を見回っているのだそうだ。
闇底パトロール(勝手に命名)というヤツだ。
で、その間。アジト(という名の日本昔話風一軒家)に残された魔法少女たちが何をしているのかというと。
証言1
「お留守番よ。いつ、月華が新入りの子を連れてくるか分からないでしょ? だから、なるべく家にいるようにしているの。
そっかー。夜咲花は、戦闘系魔法少女じゃないのかー。錬金魔法少女だもんね。
証言2
「基本、引きこもってる。妖魔と戦うのは、怖いから、無理…………。材料があれば、錬金魔法で何か作ったりしてる。あとは、ボーっと…………じゃない、新しいアイテムのレシピとか考えてる」
分かった! 任せろ! あたしが守るよ!
まだ、戦い方とか分からないけどね!
証言3 ルナさん――猫耳・猫尻尾。肩口までのワイルドヘアー。白Tシャツにデニムのショートパンツの元気っ娘。中二のあたしと、同い年くらいだけれど、お胸の辺りはあたしよりもずっとお姉さんな感じ……。
「ヨーマ狩り! ツキハナがいない間は、ルナがヨーマをやっつける! アジトには近づけない! じゃ、行ってくる!」
………………行っちゃったよ。
戦い方とか、教わりたかったのに。
いや、でも、ルナの戦い方って、きっと動物の狩的なヤツだよね? 魔法少女的なヤツじゃなくて。
爪とかジャキーンってなってたしなぁ。
参考にならなそう。
「えっと、あの、あたしは、何をどうすれば?」
せっかく魔法少女になったのに、何すればいいのか分かんないよぅ。
魔法の使い方のレクチャーとか、そういうの、ないの?
縋るように
「そうねぇ。特に、ルールとかはないし、好きにしてくれて構わないのだけれど。妖魔と戦えないと、外には出れないものねぇ」
「月下さんは、魔法使えないんですか? 月下さんには教われないの?」
両手を組んで、お願いポーズをしてみたけれど、月下さんはやっぱり困ったように微笑みながら首を傾げた。
「うーん、わたしの術は、星空には向いていないと思うわ。あまり難しく考えないで、兎に角やってみるのが早いと思うのだけれど。大事なのは、イメージをしっかりと固めること。イメージが固まったら、何かそれっぽい、魔法少女的な技名とか呪文とかを叫べば、たぶん何とかなると思うわ」
「え? そんなんで、いいんですか?」
「もちろんよ。魔法少女って、そういうものでしょう?」
自信たっぷりに、月下さんは言い切った。
頭の天辺に、雷を落とされたような衝撃を味わった。
確かに!
言われてみれば、そんな気がする!
練習とか特訓とか、そういう暑苦しいの、魔法少女のイメージじゃないよね。みんな、大体、アニメの一回目の時から普通に魔法とか使ってるよね!?
ある日突然、魔法少女になったはずなのに。なんか、魔法の呪文も一緒にインストールされちゃいました、みたいに!
えーと、つまり。
なんか、それっぽいのを叫けべば、それっぽいことが起こるってことだよね?
どうせなら、魔法少女名にちなんだヤツで!
え、えーと。
スター……スカイ…………キラキラ………………う、ううん? なんか、違うな。
何か、もっと、可愛くてカッコよくて星空っぽくて、それでいて強そうな、そんなの。
何かない?
ああん。ノートとシャーペンが欲しい。
夜咲花に頼んで、錬金魔法で作ってもらえないかな?
「ただいまー」
過去最高に頭を悩ませていたら、ガラッとやや乱暴に引き戸を開けて、誰かが帰ってきた。
月華でも、ルナでもない。
ショートカットの、儚げで可憐な驚くほどの美少女だった。
夜咲花も大概美少女だけど、この子はそれ以上だ。
月華に初めて会った時も、目を奪われたけれど、この子もそんな感じ。勝手に視線が引き寄せられて、外せなくなっちゃうというか。あんぐり開けた口から、涎が垂れちゃいそうというか。
月華は、月の女神さまと言うか、月の化身な感じだったけれど。
この子は、なんか夜の妖精みたいだ。
コスチュームは黄緑。夜咲花に比べると、装飾は少な目でシンプルな感じ。でも、それがかえってこの子の魅力を引き立てている、と思う。スカートじゃなくてショートパンツなんだけど、両方の腰骨の辺りに濃い黄緑のボタンみたいなのが付いていて、そこから薄くてふんわりした布がお尻から太ももの真ん中くらいまでを覆うような感じで取り付けられている。後ろからシルエットだけをみたら、ミニスカートを穿いているみたいに見えると思う。
「あれ? 見たことない顔がいるな。新入りか?」
儚げで可憐な見たこともないような美少女は、男の子みたいな言葉遣いと仕草で板の間の上に、登山用みたいに大きなリュックを下した。
背中からはみ出す大きさのリュックなのに、全く目に入っていなかった。視界に勝手にフィルターがかかっていたみたいだ。だって、なんか、小さくてふわっとした可愛いお花とかを一杯背負ってそうな見た目なのに。
…………何、そのごついリュック。
ギャップが。
ギャップが激しすぎる。
何だろう。この夢を打ち砕かれたみたいな感じ。
「お帰りなさい、
「お帰り、紅桃。これで、実験が捗る!」
呆然としているあたしを余所に、月下さんと夜咲花が黄緑の魔法少女の元へ近寄っていく。
夜咲花は、紅桃って呼ばれた超絶美少女よりもリュックの中身がお目当てみたいで、本人の許可も得ずに勝手に中身を漁っている。
「おまえなー……、まあ、いいけど。あんまり、散らかすなよ」
いつものことなのか、紅桃は大して気にしていないようで、ガシガシと後ろ頭を掻きながら夜咲花を見下ろしている。お兄ちゃんが妹を嗜めているみたいに、仕方がないなって感じで。
儚げで可憐な外見と、ボーイッシュな仕草が違和感ありありで、なんだかめまいがしてくるよ?
「あの子は、星空よ。ついさっき、魔法少女になったばかりの新入りなの」
「へえ? オレは、紅桃だ。よろしくな、星空」
「よ、よろし、く?」
挨拶されたので、礼儀として挨拶を返したものの。
混乱の極み! だよ!
「それでね、紅桃。あなたに頼みたいことがあるのよ」
「ん? なんだ?」
「あの子に、妖魔との戦い方を教えてあげて欲しいの」
「ああ、いいぜ。戦力は多いに越したことはないからな」
月下さんのお願いに快く答えながら、紅桃は右の肩をグルグルと回している。
それを見てあたしは。名前は紅桃なのに、コスチュームは黄緑なんだな、とかどうでもいいことを考えていた。
「よかったわね、星空。彼の戦い方は、ちょっと乱雑なところもあるけれど、一応魔法少女物のセオリーに則っているから、近くで戦い方を見ているだけでも参考になると思うわ。最初は、誰かと一緒の方が私としても安心だし」
紅桃と話していた月下さんが、笑顔であたしを振り返った。
そうかー。魔法少女的な戦い方を教われるのは、嬉しいし助かる。
これは、あたしからもちゃんとお願いせねばと立ち上がりかけて固まった。
あれ?
今、月下さん。
「彼?」
って、言ったのよね?
え?
だって。
この子も魔法少女なんだよね?
しかも、超絶美少女だよね?
仕草と言動は兎も角、見た目は超絶儚くて可憐な美少女だよね?
女子のあたしですら、守ってあげたくなっちゃうような、背景に常に小花がふわっと舞い散っていそうな感じの、妖精的に可愛い女の子だよね?
「あー、俺、男だから。月華には内緒な?」
答えは、当の本人である紅桃があっさりとくれた。
え?
ええ!?
何それ。どういうこと!?
しかも、月華には内緒って。
なんで!?