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第10話 闇底の錬金魔法少女

 ゴムホウセンカの実。

 コムギーの花。

 何かの肉。


 あと。あと、なんだろ?

 もう名前は思い出せない、何かの茎とか枝とか葉っぱとか、いろいろ。


 そんなのが、テーブルの上にズラッと並べられている。

 持ってきたものを持ってきた順に適当に置いてみました、みたいな感じに。

 割と適当な感じに並べられている。


 この何だか分からないものたちは、これからコロッケにされるのだ。

 夜咲花よるさくはなの手によって!




 そもそも、どうしてコロッケを作ることになったのかというと。


「歓迎会をやるべき!」


 って、夜咲花が言ってくれたから!


 あ。ちなみに。

 ずっと、心の中では夜咲花とルナのことは「ちゃん」付けで呼んでいたけど、魔法少女覚醒後は呼び捨てでお送りします!

 やー。心の中で呼んでた時は気が付かなかったけど、実際に呼んでみると、すっごく言いづらくてさ。ルナはいいけど、夜咲花が。

 …………最初でいきなり噛んじゃってねー。思いっきり。

 で。呼び捨てでいいって言うから、お互いに呼び捨てしあうことになりました。

 月下げっかさんは、何となくお姉さんな感じなので、このまま月下さん呼び続行だけど。

 余談だけど、月下さんは『月下でも美人でも、好きなように呼んでねって言っているのに、誰も美人って呼んでくれない』って嘆いていた。いや、月下美人ってフルネーム(?)で呼ぶならまだしも、『美人さん』って。

 呼ぶ方もテレる。

 …………月下さんは、なんか。メンタルが弱いのか強いのか分かんない人だなー、と密かに思った。もちろん、本人には言えないし、言わないけど。


 まー、そんなことより、コロッケだよ、コロッケ!


 あたしの好きなものを作ってくれるって夜咲花が言ってくれたから、もちろんコロッケをリクエスト!

 おばあちゃんのコロッケとは違うと思うけど、コロッケはまあ、コロッケっていうだけで尊いからね!



 歓迎会の主役である、コロッケの材料は、月華つきはなとルナで集めて来てくれることになった。

 月華は、歓迎会にもコロッケにも興味がなさそうで、あたしがちゃんと魔法少女になれたことを確認すると、さっさとアジトを出て行こうとしていたけれど、月下さんたちに引き留められて、結局巻き込まれていた。

 最初はみんなを振り切ってでも、外へ行こうとしていた月華だったけど、


「女の子たちが魔法少女になった後の生活をバックアップすることも大事だと思うわ。それに、そういうことも勧誘の文句の中に含められたら、勧誘率もぐっとアップすると思うの。説得力のある勧誘をするためには、まずは自分も歓迎会を体験しないとね」


 と月下さんに言われて、眉間にぐっと皺を寄せてしばし考えた後、不承不承といった感じで頷いていた。

 自分の勧誘の仕方がまずいっていうことは、一応自覚してるんだなー。

 うん、もう少し工夫した方がいいと思う。けど、月華に任せても駄目なんじゃないかな? なんていうか、こう。女の子の心をくすぐるポイントを分かっていない気がする。良くも悪くも、ストレートというか。

 月下さんも、その辺は分かっているんだろう。魔法少女勧誘の成功率を上げるためというのは、月華を引き留めるためのただの口実みたいだ。

 不承不承とはいえ月華の歓迎会参加が決まって、目に見えるほどに喜んだのは、夜咲花とルナの二人だった。二人とも、月華のことが大好きみたいです。そして、月下さんが月華を引き留めたのは、二人の為なのかなー、なんて思ってみたり。



 ここで一つ、残念なお知らせがある。

 魔法少女のアジトは、やっぱり日本昔話だったことが判明したのだ。

 秘密の地下室とか、別にないらしい。…………っく!

 でもでも。材料を集めてくれば、増築とか改築とかは可能らしいので、夢の魔法少女アジトのためにこれから頑張ろうと思う!

 激しく決意!!



 さてさて。

 月華とルナが材料集めに出かけた後。

 あたしは夜咲花に、秘密の部屋へと案内してもらった。

 いや、まあ別に、囲炉裏の間の奥にあった鍵も何にもかかっていないふすまを開けた先なので、秘密も何もないんだけどさ。

 気分の問題なんだよ。


 そこは、元は台所スペースだったらしい。

 でも、誰も料理が出来ないので、今は台所としては使ってないんだって。

 大丈夫なのかな、コロッケ?

 少し、心配になってくる。

 ずっと、使われていない台所で、料理が出来ない人が作るコロッケ。

 …………ううん。大丈夫!

 あたしは、ほら。おばあちゃんのお手伝いしてたから、作り方も大体分かるし。あたしが陰ながら、夜咲花のサポートをしよう。美味しいコロッケのために。美味しい………………それ以前に、何とか食べられるレベルのコロッケのために。

 そのためにも、大昔の台所の使い方とか、どこに何があるのかとか、料理の前に予習しとかないとね。


 えーっと?


 秘密の小部屋は、なんか長方形をしていた。床はなくて地面がむき出し。火を使うから安全の為、とかなのかな? 日本昔話の時代のお家だしね。

 うーん、家の中に小さい庭があるみたいで、なんか新鮮。

 田舎の方に行けば、今でもこういうお家があったりするんだろうか?

 んで。

 向かって一番左の壁際に、棚。ビーカーとかフラスコとかすり鉢とか、どこかで見たことあるようなものと、正体不明な謎の物体が並んでいる。

 …………料理? 台……所?

 むしろ、なんか。理科の実験室っぽいんですけど。

 理科室っぽい棚の横には、大き目のテーブルが置かれていた。テーブルの上には、ステンレスのボウルみたいなのが積み重なって載っている。よかった。ここは、台所っていうか、ちゃんとキッチンっぽい。ステンレスな感じが、なんか。

 お次。テーブルの右手、真ん中よりやや右より? の場所に、大きな竈っぽいものがあった。雪じゃなくて、くすんだ色の金属っぽい何かで出来たかまくらみたいな形の何か。たぶん、竈。…………だよね?

 で、その上に、丸くて平べったい形の鍋が載っている。オレンジと黄緑のカラフルな色彩で、何かよく分からない模様が彫られている。縄文とか弥生とかじゃなくて、なんか西洋っぽい感じの模様。…………うん、まあなんか、勝手なイメージです。



「じゃ、竈に火を起こすね」


 夜咲花はそう言うと、竈の前にしゃがみ込んだ。

 よく見ると、竈の前にはベルが置かれている。

 何に使うためのベルなんだろうと思っていたら、夜咲花が徐にベルを鳴らした。


 ――――チーン。


 澄んだいい音が響き渡る。


 ……………………で?


 と思って、内心首を傾げていたら、いたら!


 ボワッて音がして。

 なんか、竈の中に、赤いものがユラユラって立ち昇って。


「こうやって、火を起こすんだよ」


 夜咲花が得意げに立ち上がった。


 え? ちょっと、待って?

 いや、確かに竈の中では、いい感じに火が燃えてますが。


 つまり、あのベルは、火起こし用の目覚ましベルってこと?

 火起こしって、そういう意味?

 竈の中で、火っぽいものがお休みになっている姿は確認できませんでしたが、叩き起こすとちゃんと炎になる仕組み!

 これが、闇底魔法少女の火起こし!

 深い!


「風の炎とか、氷の炎も起こせるんだよ!」


 あたしが一人感動していると、夜咲花が自慢げに胸を反らした。反らしても控えめで、安心できる。

 いや、そうじゃなくて。

 風の炎とか、氷の炎って、何? それは、炎、なの?

 疑問が頭の中でグルグルしたけれど、余計な質問はせずに水洗トイレのように、ジャーって流しておいた。

 だって、夜咲花が嬉しそうに胸を反らしているから。変に質問して、いい気分に水を差してもいけないかなって思ってね? まあ、もしかしたら、嬉々として説明してくれるかもしれないけれど。でも、機嫌を損ねちゃうかもしれないし。

 その辺、まだよく分からないから、また今度ってことで。

 まあ、でもさ。ここはあの世でもこの世でもない“闇底”の世界で、あたしたちは魔法少女なんだもんね。

 風の炎や、氷の炎があってもいいよね。

 うん。また今度、見せてもらおう。

 百聞は一見に如かず、だよね!



「ん、よし。これで、後は月華たちが帰ってきたら、この錬金釜の中に材料を順番に放り投げて、錬金ベラでグルグルすればコロッケの出来上がりだよ!」


 少し火加減を調整してから、夜咲花は腰に手を当てて、鼻息をフーンってした。

 うっかり、頭をなでなでしそうになった。


 …………って、あれ?

 今、錬金釜って言った?

 ちょっと、待てよ?

 なんか、あたし、こういうの、知ってる。


 魔法少女ルックの女の子が、釜をグルグルしてアイテムを作りだす。

 確か、お父さんがそんなゲームをしてた気がする!

 あたしは、やったことないけど!

 見てただけで!


「そっか。ここは、夜咲花のアトリエなんだね!」

「そう!」

「夜咲花は、錬金……魔法少女なんだね!」

「そう!」


 あたしたちは、どちらからともなくお互いの右手をがっしりと握り合って、声もなく頷き合った。



 コロッケへの期待が、心の奥からふつふつと湧き上がってきていた。


 錬金術、ううん。

 錬金魔法少女が、錬金魔法で作ったコロッケ!


 じゅるり。


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