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エピローグ

 正男の献身的な行ないは、マスコミが知ることとなり、辺見家も連日、取材を受けた。世間一般となると、今回のことについて美談と捉える人もいれば、もしプログラムが悪いほうに暴走して、人間社会に危険をもたらすのではないかという意見も出ている。

 物事には複数の見方、考え方があり、どちらが正しいとは言えないことがある。

 だが、少なくとも正男の今回の行ないについて悪口をいう人間はいないし、辺見家にとってはまさしく家族だった。1年未満ではあったが、心の結びつきというのは時間の長短で決まるものではない。その密度なのだ、ということを少なくとも辺見家の人は明確に理解した。

 辺見家に注目が集まると、この間に関わりがあった人も正男の弔問に訪れた。もちろん全員ではないが、近所の人で変な噂話を流した沢田もいた。そして担当した刑事、安井もいた。共に正男のことを疑っていた人物だが、2人は正男の写真の前で深く頭を下げた。

 謝罪の言葉も述べていたが、一郎、美恵子、里香のいずれも正男のことが分かってくれれば良いという思いだった。それよりも関わったご縁でのずっと覚えておいてもらえれば、正男はみんなの心中で生き続けられる。

 辺見家にとって本当は次の年、正男との別れが待っていた。そのことを里香がどの様に理解していたかは分からないが、正男の最後に直面し、現実の別れとなった事実は強烈な思い出になっているはずだ。

 里香や辺見家の心のケアとして毎日のように辺見家を訪れている田代にとっても、同様に強烈な思い出になっている。

 正男に絡んだ人物が、何かの時に正男のことを思い出し、人としての考え方や生き方に役立つことを願う辺見家と田代だった。


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