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正男、死す 9

 その間、一郎も田代も黙って聞いている。美恵子が正男の最後の言葉のことを話した時、田代が言った。

「・・・あえて正男君のことについて冷静な立場でお話ししますが、私たちは設計の段階で自分の身が壊れるようなことまでにはならないようにプログラムしていました。ですから、本来なら今回の様に、自分の身体を犠牲にするようなことにはならないはずでした。そもそも今回のような事件に遭遇することは想定していませんでしたから、過度な負荷がかかることが想定される場合、動きが止まるようになっていたのです。モニターで見ている限り、プログラムの異常は感知できていません。それにもかかわらず今回のような結果になった理由は分かりませんが、正男君がロボット以上の存在になった、ということだと個人的に理解しています。そのおかげで奥様や里香ちゃんの命が救われた結果になった訳ですが、正男君が本当の人間だったら、大切にしてくれた家族を救えて良かったと思っているのではないでしょうか」

「正男君の最後の言葉に”人間になれたかな”というのがありましたが、もちろんだよ、正男君は家族だよ、って言ったら、笑顔になったように見えました。本当に正男君は私たちの家族でした。だから守ってくれたんです」

「そうだよね。正男君は辺見家の家族だ。お葬式、ウチで行ないたいと思うのですが、良いですか?」

「・・・本当は所長に確認しなければなりませんが、私が責任をもって説得します。辺見家でお葬式を上げていただければ正男君も本望だと思います。ありがとうございます。ただ、正男君の身体をお渡しすることはできないと思いますので、その一部だけになると思います。そこは機密事項もございますので、どうぞご理解ください」

「そうですか。でも仕方ありませんね。田代さんがおっしゃることもよく分かりますので・・・」

「申し訳ありません」

「田代さん、よろしければ今晩、泊まっていただけませんか? 一晩、正男君のことで語り明かしましょう。会社、明日休みますので、時間は関係ありません。家族を救ってくれた正男君ですから、せめて今晩はそうやって送ってあげたいと思います」

「分かりました。私もできればその方が気持ちの整理が付きます。それから正男君の遺体ですが、研究所から警察に手を回し、私たちで引き取ります。途中、こちらに立ち寄らせていただき、最後のお別れをしていただければと思います」

 その夜、お通夜にも似た感じでいたが、途中、里香も部屋から出てきて、話に加わった。正男と接している時間が長かったことで、里香なりの思いもあるのだろう。里香が正男君のことについてロボットという認識があったのかどうか最後まで分からなかったが、動物で言えば種を超えた関係性のような感覚があったのかもしれない。もしかすると、そういう接し方が正男にしっかりした人間性が芽生えた理由の一つかもしれない。この辺りは謎だが、少なくとも人間とロボットとの共生の可能性は見えた。

 今回のことを踏まえ、第2、第3の正男の誕生も考えられるが、今回のような悲劇を考えると、今は積極的な気持ちになれない田代だった。


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