しばらくすると警察や救急車が到着した。現場検証には刑事の安井がいた。辺見家の2人と正男を見て、10ヶ月前の一件を自分なりに解釈しようとしていた。
「このことを上層部は秘密にしたかったのか。・・・正男は人間のために働いてくれたんだな。少しでも関わった者として礼を言うよ」
安井は小声で言うと、軽く頭を下げた。そして美恵子のほうに近づき、言った。
「落ち着かれたら、署にお出で下さい。事情を伺いたいんで」
安井はそう言うと、暴走車のほうに行き、様子を確認していた。運転者には大きな怪我はないようで、少しなら会話もできた。だが内容は支離滅裂で、安井はクスリを疑った。一応やってきた救急車で搬送することになったが、逃走しないように刑事が付き添った。
美恵子と里香、サブとモモは自宅に戻った。
会話する気力もない。それでも一郎と田代には連絡しなければならない。多分、田代はモニターで今回の件は知っているはずだが、一郎に何も知らないはずだ。やっとも思いで電話し、この日のことを伝えた。元気にない声に心配し、一郎は会社を早退した。
一郎への電話の後、田代にも電話をしたが、既に辺見家に向かっている途中だと言う。美恵子は家で会い、詳細をみんなに話すことにした。
2人の到着はほぼ同時だった。いつものようにリビングに集まるが、そこに正男の姿は無い。家の中の雰囲気は異様に暗い。午前中の明るさは嘘のようだ。そこに昨日飾り付けたクリスマスツリーだけが目立つ。
里香は戻ってから一言も口をきいていない。サブとモモも悲しげだ。事故のことや正男のこと、彼らなりに感じているのだろう。
重苦しい空気の中、一郎が美恵子に尋ねた。美恵子は昼間の出来事を一郎に話そうとするが、その度に里香が変な反応をする。心にとても深い傷を負ったのだろう。クリスマスをとても楽しみにしていたのにその雰囲気が一転し、自分たちを守るため、正男が無残な姿になった現場に立ち会ったのだから、その心中は計り知れない。
「里香ちゃん、疲れたでしょうから、自分の部屋で休みなさい」
そう言われて、里香は無言で自分の部屋に行った。美恵子は一息つき、自分の心を落ち着かせた後で先ほどの続きを話し始めた。