正男の機転で難を逃れた美恵子は落ち着きを取り戻し、みんなの安全を確認しようとしたが正男の姿が無い。車が突っ込んできたと思われる場所に、無残な姿で横たわっていたのだ。
腰は捻じれ、上肢と下肢は1本ずつ体幹から外れている。そこからパチパチという火花が見える。少し焦げ臭いにおいもする。
「正男君」
美恵子と里香は正男のそばに駆け寄る。
「・・・里香チャン、・・・オ母サン。大丈夫? 怪我ハシナカッタ?」
「大丈夫よ、正男君。あなたが命懸けで守ってくれたから、私たちは傷一つないわ。・・・でも・・・。ごめんなさい。私たちを守るためにこんな身体になってしまって・・・」
「・・・僕ハ・・・イインデス。ミンナノコトヲ守レタ、・・・ソレダケデ十分デス」
「正男君、正男君」
里香が懸命に呼びかける。正男はその言葉に動く方の手を里香の頬に優しく当て、言った。
「・・・里香チャンモ大丈夫デ・・・良カッタ。安心。・・・クリスマス・・・楽シンデネ」
「駄目、正男君も一緒に楽しむの。まだ飾り付けも終わってないでしょう。一緒にする約束でしょ。死んじゃダメ」
里香の必要な言葉が周囲の人の耳に届いた。
この時、正男の姿を見て変な顔をしている人がいたのも事実だ。だが、その様子を打ち消すだけの気持ちに包まれていた。
「・・・ア・・・リ・・・ガ・・・ト・・・ウ。モウ・・・ダ・・・メ・・・ミ・・・タ・・・イ・・・。僕、・・・人・・・間・・・ニ・・・ナ・・・レ・・・タ・・・カナ?・・・里香・・・チャン、・・・ミ・・・ン・・・ナ、・・・元気・・・デ・・・ネ」
その言葉と共に、それまで里香の頬に添えられでいた手が力なく地面に落ちた。
里香は号泣していた。美恵子は涙声で正男に語りかけた。
「正男君は人間よ。私たちの家族だよ」
詳細は分からないものの、周囲の人たちはその言葉に違和感を感じなかった。むしろ、命を救った英雄かのような気持ちで満たされていた。