食事を終えたらホテルに向かった。事前に予約しておいたペットも泊まれるところだ。定員は4名だが、今回は5名とペット2匹という大所帯だ。ホテルと相談し、簡易ベッドを用意してもらい、同じ部屋に全員泊まれることになった。
初めての場所なのでナビを活用したが、戸惑いながらのことだったので、思ったより時間がかかった。
フロントでチェックインし、部屋に案内された。室内を確認すると、ベッドを1台増やしてもらってもさほど狭さを感じなかった。
いつものようにサブやモモとも一緒に食事したいというリクエストを出していたので部屋食となり、ペット用のメニューも注文しておいた。これでいつものと同じような環境で過ごせる。そう思ったら一郎には眠気が襲ってきた。ずっと気を張りながらの運転だったので疲れが出ているのだ。
「少し横になっていたら? 私たち、ホテルの近くに散策してくるから。食事の前には帰ってくるわ」
美恵子が言った。ホテルに来るまで、周りの様子を確認しており、散歩するには良い場所であることは理解している。それで一郎以外全員、部屋を出た。
ホテルの周囲も紅葉がきれいだ。車で見るよりはゆっくりとそのそばを通り、また間近で見ることもできる。里香は記念ということだろう、色づいた葉を何枚か手にした。
そしてその内の1枚を正男の胸ポケットに刺した。
「正男君、かっこいい」
「本当? 里香チャン、アリガトウ。僕、嬉シイ」
里香と正男はここでも2人の世界に入っている。こうして見ていると、本当の妹弟に見えてくる。最初の頃は会話力に乏しい正男が弟のような感じだったが、違和感なくしゃべっている様子からは本当の姉弟のように見える。見た目には正男のほうが兄に思え、短期間の間に成長していることが直視で実感した。これまでも田代はモニターの画面から様子を見ていたが、違う環境で見ることでその感覚もこれまでと異なっていた。以前も同様の成長を感じていたが、事あるごとにそのレベルが上がっている。これもAIの進歩かと技術者としての視点で見てしまうところがある田代だが、最近はその意識が低減し、人として正男に感情移入することが多くなっている。そういう自分を感じると、これも辺見家のおかげかなと思うことがある。今回も誘ってもらい、そのことを再確認した。
約2時間、ゆっくり散策した後、ホテルに戻った。一郎は起きていた。
「どうだった?」
「きれいだった。車や滝のところでも紅葉を見たけれど、歩いてゆっくり見るのも良いわね。見て。里香が正男君に紅葉の葉をプレゼントしたわ」
美恵子の言葉に改めて正男の様子を見た一郎が言った。
「正男君、かっこいいね」
「でしょう? 私が胸に刺してあげたの」
里香が誇らしげに言った。正男は微笑んでいるように見えた。
しばらくすると部屋に食事が運ばれてきた。サブとモモの食事も一緒だ。この後、運転することは無いので、大人にはワインが用意されている。
「おいしそう。冷めないうちにいただきましょう」
美恵子が言った。今日は料理を作る必要も片付ける必要もない。主婦にとっては休日になる。そこに美味しそうな料理が並ぶとなるとテンションが上がる。その様子に全員が巻き込まれ、夜遅くまで楽しい時間になった。