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コスモスと紅葉 8

 そういう話をしていると車から見える景色がどんどん変わってきた。紅葉している様子がはっきりしてきたのだ。そのことは運転をしている一郎が一番分かる。

「見てごらん、車の外。紅葉がきれいになってきたよ」

 その言葉にみんなはしりとりを止め、一斉に外の景色を見た。

「きれい。赤や黄色、まだ緑のままの葉もあって、錦絵のような感じね」

 美恵子が言った。その様子を見たみんなは景色のほうに夢中になり、ほとんど無言になった。

 しかし、いろは坂に差し掛かり、カーブが続くとそのことで身体が左右に動き、さながら遊園地の遊具にでも乗ったかのような気持ちになっている。この場所はそういうことも体験できることで人気なわけだが、そのことで車に酔ってしまう人が出てくるかもしれない。一郎はそのことを心配してみんなに問いかけるが、その心配はないようだ。

 しばらくすると華厳の滝に着いた。約100メートルを流れ落ちる水を様子は圧巻で、見ていると吸い込まれるような感じがする。滝を見るだけならすぐに終わりそうだが、もっと近くで見ることができる場所がある。エレベーターで降りることになるが、もちろんみんな行きたいという意見だ。

 滝を見るための場所は100メートルほどエレベーターで下ることになるが、近くで見る華厳の滝の迫力は別格だ。水が落ちることでしぶきが上がるが、そのおかげでとてもひんやりしている。東京を出る時は寒いとは思わなかったので、それに合わせた服装だったが、それではさすがに寒くなった。でも、里香は滝の迫力に寒さも忘れて見入っていた。

「スゴイネ、潰サレソウダ。里香チャン、怖クナイ?」

「怖くないよ。正男君、怖いの? 弱虫ね」

「弱虫ジャナイヨ。大丈夫ダヨ」

 2人の会話は周りを和ませた。滝を見るのは2人とも初めてだ。一郎たちは2人にとって良い体験になったと思っている。

 しかし、寒いのはどうにもならない。満足いくまで見たらお昼のことが頭を過った。

「考えてみれば、まだ昼食をとっていなかったよね。ここから上のほうに戻ったら、何か食べようか。確か途中にお蕎麦屋さんがあったように思うけど、温かいもの、どうかな?」

 一郎が言った。里香も実は寒かったようで、その提案には賛成した。

 食事処ではそれぞれが食べたいものを注文したが、正男はみんなに合わせた。こういう時、正男は場を乱さないことを学習している。食事をしながらこの日のことを思い出しながら会話も楽しんでいる。このお店はペットの入店が大丈夫だったのでサブとモモも一緒に居る。さすがに同じものを食べさせるわけには行かないので、後で食べさせることにした。

 食事が終わったら車のほうに行ったが、サブとモモはここで食事をさせた。そのための食器なども持参していたので、慣れた食器でしっかり食べていた。家から離れたところでも、いつものような感じで食べる様子を、みんなほっこりした気分で眺めている。気持ちが洗われた旅行になっている。


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