全員車に戻ったところで出発だ。サービスエリアに立ち寄ったところで里香の退屈も少し治まったようで、買ったお菓子を食べたらそのまま眠ってしまった。早起きが原因と思われるが、朝は興奮で眠気が吹き飛んでいたのだろう。
そうこうしていると、走りがスムーズだったおかげで宇都宮インターから、日光宇都宮道路にすんなりと入ることができた。当初想像していたより渋滞や人出が多いとは感じない。この時点で到着時間は思ったより早くなりそうな感じだった。
だが、そう思ったのもつかの間、車の流れが悪くなった。渋滞情報を確認するとこの先で事故があったようで、それが原因で止まっているのだ。おそらく、車線を上手くコントロールして車を少しずつ流しているのだろうが。これまでせっかくスムーズに行っていたことがこれで帳消しになった。
「何故、止まっているの?」
里香が目を覚まし、車が動かないことを気にした。それに対して美恵子が言った。
「この先が事故みたい。もう少し待っていてね」
「どれくらい?」
「それは分からないけど、少しずつは動いている。事故の場所を抜けたらその後は早くなるよ」
「そうか、・・・じゃあ正男君、ゲームやろう」
「ゲーム? 何ヲスルノ?」
「しりとり」
「ドンナ内容?」
「例えば私がリンゴと言うでしょう。そうしたらリンゴの”ご”という文字を取って正男君がゴリラと言うの。そんな感じで言葉を繋げて、そこから先に進めなかったら負け。そして最後の言葉に”ん”が付いても負けなの」
「分カッタ。面白ソウ。マタ里香チャンカラ教エテモラッタ。アリガトウ」
正男は頭を下げながら言った。以前は言葉ではお礼を言っても行動は伴っていなかった。それがいつからかは分からないが、頭を下げながらお礼を言えるようになっている。周りの人の様子を見て、自ら学習したのだろう。田代は正男のさらなる成長を喜んでいた。
しりとりゲームは車内で思ったより盛り上がった。そして、2人の様子を楽し気に見ていた美恵子と田代にも声がかかった。
「お姉ちゃんとお母さんも一緒にやろう」
里香が言った。その言葉に2人は喜んで参加した。4人で行なうしりとりで車内は明るい声に包まれたが、一郎はその様子を耳にしながら微笑んで運転をしている。
「あなた、ごめんなさいね。私たちだけ楽しんで」
「いいよいいよ、みんなが楽しく過ごしている様子が分かるだけで幸せな気分になる。そのまま楽しんで」