入場すると正面に噴水が見える。夏であればその様子はとても涼しげに見えるはずだ。辺見夫妻や田代の場合、歩いていることで汗ばんでいることからか、この季節でも噴水の水の様子で心理的に涼んでいる。
「噴水のそば、水のミストで涼しそうね。早く行こう」
美恵子が言った。そして近くに行くと、記念写真を撮った。これまでも訪れたところでは必ず撮っていたが、最近は同じようにやっていてもその瞬間がとても愛おしく感じる。正男がやってきて、田代も家族同様の付き合いをしているが、日を重ねるごとに貴重な瞬間という思いが強まり、記録として残すことの意義を強く感じるようになっているのだ。
噴水のところから足を進めると、今度は大きな池が目に入ってきた。その周囲を右回りに歩くようにしたが、やがて左手に大きな広場が目に入った。
その一角に、黄色のコスモスが絨毯のような感じで一面に広がっている。結構背が高い花もあり、その間を歩いている人などは、花に包まれている様に見える。その様子を見た里香が言った。
「早くあそこに行こう。里香も黄色いコスモスの中を歩きたい」
「でも、里香ちゃんの背だったら見えないかもしれないから、正男君に抱っこしてもらいなさい。正男君、お願いね」
美恵子が言った。
「ハイ、分カリマシタ。里香チャン、行コウ」
サブとモモを両親に預け、里香と正男は小走りでコスモスの畑のほうに行った。
美恵子が思った通り、里香の背だと花に隠れて見えなくなってしまう。
でも、正男が里香を抱きかかえると、花の上に顔が出た。とても楽しそうな表情だ。一郎と美恵子はそれぞれのカメラでその様子を何枚も撮った。もちろん、田代も同様に写真を撮った。研究所に持ち帰る意味もあるが、個人的な思い出としても残しておきたいということからだ。
この場所ではしゃいでいると、喉が渇いたということで近くの売店で飲み物を買った。今回は園内を歩くことを想定していたので、飲食物は持参していない。必要な時に売店で購入することにしていたのだ。