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コスモスと紅葉 3

 田代はコスモスを見に行く前日から辺見家に宿泊していた。朝、いつも通りに起き、簡単に朝食を食べ、10時ごろ家を出た。目的の昭和記念公園までは車で30分くらいの距離だ。車は近くの駐車場に止めるし、季節的に海水浴の場合と違ってサブとモモも一緒に行ける。

「サブちゃん、モモちゃん。また一緒にお出かけだよ。今日はコスモスを見るよ」

 里香が2匹に声をかけている。もちろん分かるわけはないが、みんなと一緒にどこかに行くということくらいは分かるのか、サブは尻尾を振っている。モモも里香の目をじっと見ていて、その表情は何かを訴えるような感じだ。その様子を見て里香も首を縦に振っているが、まるで種を超えて会話をしているような感じだ。

「さあ、出かけるよ。みんな車に乗って」

 一郎の言葉で全員乗車した。

「お父さん、安全運転でね」

「大丈夫。みんなを預かるハンドルだ。注意して走るよ」

 その言葉を聞くか聞かない内に里香は持参したお菓子を食べ始めた。

「里香、お姉ちゃんの前でみっともないわよ」

 美恵子が言った。その言葉でお菓子を食べることを止めた里香だった。

「大丈夫ですよ。里香ちゃん、食べても構わないわよ」

 田代は里香を見ながら言った。その言葉で里香は再び食べ始めた。

 そういうことなどで車の中は明るい雰囲気に包まれ、目的地の昭和記念公園に着いた。近くの駐車場を探したところ、空いているところがあったのでそこに止め、そこから歩いて正面ゲートに行った。立川駅の方面から園内に入る場合、手前の無料ゾーンを経て有料ゾーンに入ることになるが、思ったより距離がある。秋の気候とは言っても、この日は晴天だったので陽の光が直接降り注ぐ。そのため少し坂になっているところを歩くと、思ったより汗をかく。でも時折吹く風が心地良い。

 里香やサブはとてもご機嫌で、坂を駆け上がり、みんなを呼んでいる。始めてくるところなので、その景色にテンションが上がっている。

 入園のためのゲートに着くと、その近くにもコスモスが咲いていることが確認できる。

「正男君、コスモスだよ」

「キレイダネ。コンナ花ガタクサン咲イテイルトコロニコレカラ行クンダネ。楽シミ」

 サブのリードは里香が持っているが、モモを入れたゲージは正男が持っている。正男はモモに見せようと、コスモスに近づける。

「モモチャン見テ、コスモスダヨ」

 正男がゲージを近づけたために、モモは鼻を近づけている。香りを嗅ごうとしているのだろう。どういう風に感じているかは分からないが、少なくとも嫌がっているようには見えない。正男は初めての場でも臨機応変にモモに話しかけているが、会話力や思考力が上がっているように見える。


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