夏、辺見家や正男にとっては大変な時期だった。だから秋は良い季節にしたいとこの時期らしい楽しみを考えていた。
テレビでは秋の行楽についての番組が放送されているが、その様子は家族全員で見ている。正男も花のきれいさを感じる感覚を身に付けている。だからテレビに映し出される映像に見入っている。
「正男君、秋の景色、好き?」
美恵子が尋ねた。
「好キデス。近クデ見ラレマスカ?」
「見ることできるけど、テレビのような感じで見たいならそういうところに行かないとだめね。正男君、行きたい?」
「行キタイ」
「里香も行きたい」
「そう、じゃあ夜、お父さんに話してみるね。多分問題ないと思うよ」
美恵子は笑顔で応えた。
夜、一郎が帰宅し、美恵子は玄関で出迎えた。立ち話だったが、美恵子が昼に話したことを一郎に言った。
「あなた、里香と正男君がコスモスや紅葉を見たいって言っていたわ。良いでしょう?」
「もちろんだよ。家族が楽しいと思うことには全て賛成だ。鎌倉にアジサイを見に行った時も良かったので、今度もそうなると良いよね」
そういう会話をしながらリビングに行った。そこには里香や正男、サブやモモもいた。いつもの家族の様子だ。
「お父さん、昼間の話、賛成してくれたわ。みんなで行きましょう」
「楽シミデス」
返事は里香より正男のほうが早かった。
「正男君、ずるい。私が先に言いたかったのに」
少し唇を尖らせ気味に言ったが、もちろん本気ではない。
「ゴメンネ、里香チャン。怒ッタ?」
正男は心配した様子で里香に尋ねた。すると笑って答えた。
「全然。正男君がどういう顔になるかなと思って言っただけ」
「ソウカ、良カッタ」