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正男、辺見家へ 5

 しばらくすると料理が運ばれてきた。

 まずはサラダや前菜だ。簡単にということだったが、運ばれてくるのは1品だけではなさそうだ。その様子を感じ取った田代はキッチンのほうに行き、美恵子の手伝いをすることにした。サラダや前菜は取り分けられるようになっているため、一人でも運べるが、パスタやメインとなる肉料理の場合、個別になってるため、どうしても人手がいる。

「田代さん、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそすみません。何もお手伝いができず、申し訳ありませんでした」

「娘の里帰りですもの。ちゃんとしないとと思っていました」

 この言葉を聞き、田代の涙腺は再び緩んだ。

 今回は正男も含めた食事だ。もちろん、サブやモモの食事も用意してある。家族全員が集まってのランチになった。

 辺見家のみんなは正男の食事が気になるようで、自分が食べるのをそっちのけで注目していた。正男の食べ方は人間と同じで、咀嚼する様子、その上で飲み込むということをやっていた。その様子はとても自然で、人間同様に食事している。

「田代さん、正男君、すごいですね。まるで人間だ。美味しそうに食べている」

「はい、この点、制作時にとても注意したところの一つで、人間社会に溶け込もうとする場合、必ず食事の場面があるので、そこをいかに自然にできるか、ということに注意しました。いろいろな映像から何を食べるか、ということが始まってその時の咀嚼の仕方や食べること全般に関わる動き、箸やナイフ・フォークの使い方など、たくさんの映像からAIに学ばせました。今のレベルであれば学習させることができますが、その動きがメカで再現できるかと、ということは別問題でした。でも、今、実戦レベルで目の当たりにし、その工夫が実っていることを確信しました」

「ご苦労があったのですね」

「みんな、食べようよ。正男君の話ばかりで、一緒に食べないと楽しくない。おしゃべりはそれくらいにして」

 里香もみんなの話のほうに気を取られ、食事が進んでいなかった。せっかくの料理が冷めてしまうことも心配してのことだった。

「ごめんね、里香。さあ、食べよう」

 この一言でみんなの本格的な食事がスタートした。その間、話は世間話に終始するが、里香と正男はなかなかついていけない内容だった。となると、里香は正男との話が中心になる。

「正男君、美味しい?」

「ウン」

「どんなところが美味しい?」

 正男は人間ではないので、こういった会話は苦手だ。しかも質問者は子供なので、さらに回答は難しい。しかし、問われた以上、答えなければならない。

「僕ガ感ジルコトハ、塩気ト甘ミ、適度ナ酸味ノバランスガ良ク、自分ガ覚エテイル美味シイオ店ノデータニ似テイル。ダカラ美味シイ」


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