「姉弟? 何ですか?」
「家族ってこと。ここでのこと、何でも聞いて」
「姉弟って、里香、お前、お姉ちゃんになったのか?」
一郎が微笑みながら言った。
「そうよ、今、正男君は弟になったの。だから私が正男君を守る。サブちゃんやモモちゃんも私の弟と妹。今度は正男君が弟になったの」
「そう、里香ちゃんは3人の弟・妹がいるのね。責任重大ね」
美恵子が言った。
「私はパパとママから守られている。だからサブちゃんとモモちゃん、そして正男君は私が守る。そしてこの前からお姉ちゃんもできた。家族が増えた。にぎやかで楽しい」
田代も含め、この空間に明るい光が差し込んだ感じになった。
「そうそう、正男君の部屋ですが、田代さんに泊まっていただいたところを考えています」
「ありがとうございます。本当に家族のように迎えていただけるんですね。正男君も喜ぶと思います」
「ところで少しお昼を過ぎてしまいましたが、みんなでランチにしませんか。今日里香も庭に出ていますし、外のテーブルでと思っています。簡単なことしかできませんが、パスタでよろしいですか?」
美恵子が言った。
「いえいえ、私は・・・」
「そうおっしゃらずに・・・。里香も喜びますから是非」
田代は少し考えたが、せっかくのご厚意だ。里香が喜ぶならということで招待を受けた。
準備ができるまで、田代と一郎は庭での食事のセッティングをすることになった。
その際、正男にも手伝ってもらうことになった。テーブルを運んだりチェアやパラソルをセッティングしたりと、言われたことをこなしていた。
もちろん、動きがぎこちないことは当然だが、あえて人間の暮らしを学んでもらうため、田代と一郎は指示役に回った。
「正男君、すごい。一人でやっている。パパとお姉ちゃんも手伝わないとダメ。正男君ばかりにやらせるのは可哀そう。里香も手伝う」
もちろん、小さな子供の身体でできる訳はない。田代と一郎はそれを手伝うという感じになったが、家族総出で何かをやるというところに一体感を感じていた。田代が辺見家にお世話になっていた時は、どこかお客様的なところがあったため、いろいろなことは一郎と美恵子がやっていた。
でも今回は、そういう垣根を超え、一つになってやっているのだ。
たかだかランチのセッティング、という意識で考えたら大したことはないかもしれない。
しかし、これも正男が人間社会に溶け込むためのことと言う視点から考えれば、とても意義があることだ。そしてそれは田代にとっても、辺見家に本当に迎え入れてくれた、という感覚になっていた。