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正男、辺見家へ 3

「ご主人、頭を上げてください。安全対策は私たちも重視していました。メカとそのコントロールのところには開発チームも注力していましたので、研究所では何度も試行錯誤しながら設計し直し、緻密な作業を要求される医療用機械を上回る精密な動きができるようになりました。それでも機械ですから、万が一のことを考え、緊急停止装置が装備されています。これは人間が咄嗟に時に起こす行動をベースに、突然大声を出すとか、想定外の方向に引っ張るとか倒されるといったことが為されれば、動き自体が止まるようになっています。自分で転んだ場合は自動修復装置が働きますが、人為的に倒された時にはそれ以降は停止します。もし、何かあるようであれば、人間に対する抑止行動で停止しますので、ご安心ください」

「そうですか。そこまで考えられているんですね。納得しました」

 一郎は田代の説明に最後の疑念が払拭されたような顔をした。

「それで正男君は私たちと一緒に食事はできるんですか? 家族として生活するなら、この家の主婦としてお聞きしておかなければ、正男君だけ別扱いになり、かわいそうですので・・・」

 美恵子が質問した。主婦として、女性としての視点からだが、そういう心遣いができるご家庭だからということでお願いすることになったのだ。だが、改めて言われたことで、また田代の心には熱いものが溢れてきた。

「初めて連れてきましたが、そこまで心配りをしていただけるなんて、とても感謝しています。正男君は食事できるようになっています。実は研究所内では私が正男の母親代わりのようなことをしておりまして。だから調査員に名乗りを上げ、お邪魔させていただきました。私は辺見さんのご家庭なら安心してお預けできると確信しました。それが今の温かいお言葉でより安心しました。正男は幸せ者です」

 私たちの話を聞きながら、一旦それが途切れたタイミングで里香が言った。

「正男君、今日は天気がいいから、外は気持ちいいよ。庭に出てみない」

「外、温カイ、気持チイイ。ドンナ感ジ?」

「出れば分かるよ」

 里香は正男の手を取り、リビングから庭に出た。

 田代もお邪魔していた1週間の内、里香と一緒に庭で遊ぶことが多かった。子供用の遊具もあるが、いろいろな花を植えた花壇もある。里香はその花壇のほうに正男を連れて行った。

「正男君、きれいでしょう」

「キレイ?」

「そう、いろいろな色や形があるでしょう。私、こういうものを見ているのがとても好き。心がとても温かくなるの。正男君はどう?」

「僕ニハマダヨク分カラナイ。デモ、里香チャンガソウ言ウナラ、コウイウコトガキレイトイウコトダト分カッタ。モットイロイロ教エテクダサイ」

「分かった。たくさんお話ししましょう。私たち姉弟よ」


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