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再確認

 次の日、田代は再び辺見家を訪れた。ちょうどこの日、午後には一郎が家にいるという。その時間にアポを取り、辺見家の全員と再会した。

「お待ちしていました」

「先日はいろいろお世話になりました。その後のご報告とお話ししたいことがございまして今日、お時間をいただきました」

「そんなにかしこまらないでください。先日もお話ししたように、ここを第2の実家と思っていただいて結構ですので・・・。里香もお姉ちゃんがまた来ると言って喜んでいました。ねぇ、里香?」

 美恵子は田代に話した後、里香に目線を移した。里香は美恵子の言葉に頷いている。

「お姉ちゃん、話が終わったら、また遊ぼ」

 無邪気な笑顔で田代に言った。

「そうだね、ありがとう。私も里香ちゃんと遊ぶとホッとする。その前にお父さんとお母さんに大切な話があるので、ちょっと待っていてね」

 田代は緊張した表情になり、辺見夫妻のほうを見た。

「昨日、研究所のほうで今回の件で報告させていただきました。私の実感として、こちらはベストだとお話しさせていただきました。これはリップサービスではなく、私の本心です。だからこそ、そういうご家庭の不和を招くようなことは避けなければならない、という思いがあります。具体的にはプライバシーの問題です。会議でもその点について確認がありました」

「そのことですか。実は田代さんが帰られた後、再度募集要項を読み直してみました。プロジェクトの趣旨から予測されることを丁寧に書かれてあることを確認しました。私も会社の役員という立場から、運営にはいろいろ考えることがあります。今はいろいろな問題を防止するための予防策が取られるようになっていますが、それでもこの部分はプロジェクト成功のために避けて通れないことがある、ということも理解しています。ただ、それは私の認識です。家族全員が関係することであれば、私一人の理解だけで簡単にOKを出すわけには行きません。ですから、お帰りになった後、家族会議を行ないました」

 ここで一郎は一息つき、美恵子や里香のほうを見た。その目は慈愛に満ちつつも、きちんと話し合い、その上で決めたことと言うことを物語っているように見えた。

「田代さん、今回、ウチが応募した時は確かに興味の部分もありました。これまでなかったことだし、もしそれで私たちの家族が選ばれたとなれば貴重な経験になる。それは里香にとっても良い体験になるのでは、と考えました。そして田代さんがお越しになった。そして1週間、生活を共にしてプロジェクトのことと言うより、田代さん、私たちはあなたを信用したのです。その際、娘の里香の感性を信じ、これほど打ち解け、無邪気に信用する姿を見て、あなたが一生懸命になっていることなら、ご覧になった通りの生活をしている私たちの様子がどこかでモニターされていたとしても、悪意で活用されるわけではないし、研究所のセキュリティを信じることにしました。1年間の中には夫婦喧嘩のシーンや娘とのやり取りなどでお見苦しいところをお見せするかもしれませんが、そういうことはどこの家庭でもあることですしね。変な言い方ですが、そういうシーンはドラマでも見ている気持ちでモニターしていただければ、といった具合に開き直れると家内とも話したところです。里香はまだ子供ですから意味は分からないかと思いますが、お姉ちゃんが喜ぶことならと賛成してくれました。もっとも、私たちがこういう話をしていても、ご依頼がなければ家の中での話だけで終わるところですが、田代さんをはじめ、皆さんがこのウチを選ばれたというのであれば、大変光栄です。皆さんのほうでよろしければ、私たちは大丈夫です」

 一郎は改めて家族全員の顔を見ながら、力強く言った。美恵子も里香も笑顔で頷いている。そこにいたサブやモモも、心なしか微笑んでいるような表情に見える。

「・・・ありがとうございます」

 田代は目に涙を溜め、お礼を言った。

「お姉ちゃん、泣くなんておかしいよ。お話し、終わったら里香と一緒に遊ぼ」

 屈託のない里香の様子に救われる田代だった。

 田代は両親に一礼し、里香のリクエストに応え、またサブやモモも加えて無邪気に遊んだ。その様子を見ている里香の両親もまた、嬉しそうに微笑んでいた。

 夕方になり、そろそろ田代が帰ろうとしていた時、美恵子から夕食を用意してあるから食べていくようにという話が出た。その上で一郎が田代に泊まっていくように言った。里香と遊んでいる時、両親はそういう話でまとまっていたようで、その言葉を聞いた田代はここでも涙を浮かべた。

「・・・ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

 田代は辺見夫妻にお礼を述べた後、里香に言った。

「お姉ちゃん、今日、お泊りしていくから、食事の後も一緒に遊ぼうね」

 その言葉を聞いた里香は、とても嬉しそうな顔をした。


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