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会議 1

 次の日、田代は研究所にいた。調査員して体験したことを報告し、正男の預ける先を決める会議が行なわれたのだ。

「田代君が昨日、候補の3家族の調査を終え、これから報告がある。私のところには定期的に報告があったが、いずれもメールだった。だが、今日は肉声で語ってもらい、皆さんからの質問を受け、どうするかということを決定したい。もちろん、いずれも不適格と判定された場合は新たに募集しなければならない。そこは田代君の気持ちもあろうが、客観的な立場からの判断が必要になる。忌憚のない意見交換をしてほしい」

 主任の岡田が言った。

「田代君、伝え聞いている情報では、調査員として良い感触のところがあったそうだが、主観的なことだけではなく、客観的な視点から他の家庭とどう違うかを聞かせてくれないか」

 研究員の大塚が言った。このような質問は想定内だったので、田代は事前にこの点を全員に見てもらうべく、パワーポイントに整理しており、それに基づき説明した。

「今度のプロジェクトの場合、正男が実際の人間の家庭で人間らしくなるために学ぶ、というところがポイントだと考えています。ですから私は、家庭環境がその視点から適切であるかどうかを観たつもりです。客観的な条件は募集要項に記載してあったので、基本的には同じようなものです。子供の年齢は揃っていましたが、性別については男の子が1人、女の子が2人という構成でした」

「正男は男という設定なので、男の子がいる家庭のほうが適正なのでは?」

 最初に質問した大塚が質問した。

「私も最初はそういうこと考えましたが、伺ってみるとゲーム好きの子で、ロボットがやってくることについてゲームキャラクター的な意味での興味が優先になっており、プロジェクトの目的にはそぐわないと感じました」

「では、改めて男の子がいる家庭を探し、再度調査することも検討することになるかな」

 別の研究員、山本が言った。

「そういうことも考えられるかもしれませんが、正男の経験に求められるのは人間の優しさをどう学べるかということではないでしょうか。私は調査員としての視点から今回の経験をした立場からお話しさせていただきますが、子供の性別と正男の設定性別を必ずしも合わせる必要はないと考えます。正男は私たちが勝手に設定してる性別であり、本質はロボットが人間社会で共生できるか、ということでこのプロジェクトはあると思っています」

「田代さんは女性だから、女の子のほうに思いが偏っているのですか? 岡田主任から回ってきた報告書を見ると、最後に調査した辺見家の評価が高いように思えますが、調査の時点で何らかのフィルターがかかったということはありませんか?」

 山本から想定外の性別に関する質問に田代は少しムッとしたが、感情的になるわけにはいかない。だから、この質問に対しては毅然として答えた。

「今の山本研究員からのご指摘ですが、客観的な視点とおっしゃるならば、ロボットという存在には本来性別はありません。男性に似せて作る、女性に似せて作る場合は性別の要素は必要かもしれませんが、あくまでも今回のプロジェクトはロボットという存在が人間と共生可能かというところを確認するためのことです。となれば、人間の性別以前に、人間性のほうに重きを置き、正男には広い意味での人間としての優しさを学んでもらえればと調査の段階で考えさせられました」

 田代の話にそもそものプロジェクトの目的を思い出したメンバーもいたようで、この点に関する意見の方向性は田代の考えにまとまった。もちろん、その後、全家庭の様子をプロジェクトの視点から眺めた場合のメリット、デメリットについて客観的な視点から包み隠さず報告があった。


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