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 それから1週間、田代は辺見家の様子を変に意識させることがないように留意しながら観ていた。

 子供や動物の場合、大人のような打算はない。だから最初はともかく、さりげなく観ていれば最初と違ったことをやる可能性が高い。しかし、里香とサブ、モモの関係には何の問題も感じられない。一郎と約束した通り、食事の世話やトイレ掃除もきちんとやっていた。しかも丁寧だ。

 田代も小さい頃、自宅で犬を飼っていたが、ここまで面倒を見た記憶はない。同じような経験があることが恥ずかしくなるくらいの里香の面倒見の良さを感じていた。

 もちろん、子供だけではすべてきちんとできないところもあるのだが、そういう時は母親の美恵子がさりげなくサポートしている。その際、里香に対して上から目線でこうしなければならない、といったことは一言も言わず、見て理解し、実践できた時に自然に褒めている。里香もそのことで自分の行ないが良いこととして理解しているようで、そういうさりげない教育の様子が田代の共感を得ていた。

 父親の一郎は仕事のために昼間は自宅を空けているが、会社役員ということもあり、出社時間は特別なことがない限り、比較的自由だ。そのため、なるべく家族と一緒にいることを選択し、昼過ぎには帰宅していることも多い。

 そういう時は家族とともに時間を過ごし、サブとは庭で遊び、モモとは家の中で戯れる。天気が良い時にはサブを散歩に連れて行くが、その時、モモにも首輪を付けた上でペット用の乳母車に乗せ、里香と一郎で外に行く。たまに母親の美恵子が一郎の代わりに散歩に連れて行くこともあるが、ペットも含め全員が仲の良い家族ということがヒシヒシと伝わってきた。

 そして調査最終日、里香は田代に懐いていた。この時点で新しいお姉さんという感じになっていたのだ。

 そこまで仲良くなると、別れは辛い。だが、田代はあくまでも調査員として辺見家を訪れている身だ。濃密な1週間はすぐにやってきたが、辺見家を去る前、田代は辺見家のみんなに言った。

「お世話になりました。ご主人、奥様、里香ちゃん、サブちゃん、モモちゃん、みんなから優しさを教わりました。私はこの1週間のこと、絶対に忘れません。最初は調査員としての仕事のつもりでしたが、私も辺見家の人間になったような気がします。もちろん、図々しい私の一方的な思いですが、大変感謝しています。その上でお願いなのですが、今度は仕事ということではなく、一人の人間としてたまにお邪魔してよろしいでしょうか?」

 辺見家の人からは大拍手で歓迎された。

「お姉ちゃん、時々来てくれるの? 里香、嬉しい」

 満面の笑みで里香が言った。もちろん、一郎も美恵子も笑顔で頷いている。

「田代さん、ここを東京の実家と思っていらしてください。こういうことで知り合ったのも何かのご縁です。私はそういうことを大切にしている。いつでも大歓迎です。悩み事があるような場合もご遠慮なくご相談ください」

「恋人も連れてきてくださいね。女同士、いろいろお話ししましょう。里香が大人になった時の勉強にもなりそうだし、これで娘が2人できた感じね」

 美恵子も田代が遊びに来ることを楽しみにしているようだ。サブは最初と同じようにしっぽを振っているし、モモは足元に寄ってきて身体を擦り付けている。言葉が分からない2匹も田代を家族の様に思っているのだろう。

 田代は後ろ髪を引かれる様な思いで辺見家を後にしたが、玄関を出て姿が見えなくなるまで家族全員で手を振り、見送ってくれた。田代も何度も振り返り手を振り、同時に溢れ出る涙をぬぐっていた。


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