その間、正男を預ける家庭の募集が行なわれていた。
条件は5歳くらいの子どもがおり、ペットを飼い、穏やかな家庭で、ロボットにも愛情を注げるということだった。
初めてのことなので、興味本位の応募が多く、選考には時間を要したが最終的に浅田家、岸田家、辺見家の3組が残った。今回の選考ではそれぞれの家庭に1週間滞在し、最終的に正男を預けるにふさわしい家庭を決める。所内ではそのための選考員の募集が行なわれた。
全くの他人が1週間滞在し、その時の対応をレポートしてもらい、面接だけでは分からないところを確認してもらうわけだ。
その選考員は田代という女性で、まずは浅田家を訪れた。
「本日から1週間、お世話になります田代です。よろしくお願いします」
見るからに裕福そうな佇まいの家で、主人の浅田稔が田代を出迎えた。
「こちらこそ、よろしくお願いいします。ご存じだと思いますが、今回のモニター、我が家は条件に合致しているとは思います。でも、そちらでイメージしているところかどうかは分かりません。それで最終選考ということでお越しになったと思いますが、何かありましたらご遠慮なくおっしゃってください」
田代は挨拶を受けると家の中に入ったが、リビングでは家族が待っていた。
息子の健太と母親の美智子がいた。
「この人が1週間、ウチにいるの?」
健太が稔に尋ねた。
「そうだよ」
「ふーん。それでロボットがここに来るかどうか決まるんだ」
「そうだよ。だからいろいろ話を聞かせてもらうこともあると思うけど、よろしくね」
田代が優しく返事した。
しかし、健太の反応は今一つだった。初対面の相手だし、今回のことを子供が理解するのはむずかしいのかもしれない。
「健太君だよね。今、どんなことをして遊んでいるの?」
「ゲーム」
「じゃあ、ロボットも出てくる?」
「出てくるよ」
この話になると、健太の目の色が変わってきた。
「そこではロボットはどんな感じ?」
「強い。悪い奴らをやっつける。正義の味方だ」
「そうか、正義の味方なんだ。でも、今度お世話になるかもしれない正男はちょっと違うかな」
その言葉を聞いて健太の顔はまた変わり、関心がなさそうな表情になった。ロボットに対するイメージが固定してるのだ。
「正男って言うの? そのロボットは?」
「そうよ、戦うためにじゃなくて、普通の社会で一緒に生活できるようになることを考えているの。だから、もしお世話になる時はお友達になってね」
「友達か・・・。うん、考えてみる」
今、田代たちが考えているプロジェクトの場合、人間とロボットの共生がテーマだが、ゲームでのキャラクターのイメージを持つ子供なら、知能的には5歳ぐらいの設定で預ける予定なので、正男がどう育つか心配になった。もちろん、初対面の子供であり、話の内容が読めないからだろう、ということで1週間、田代は浅田家にお世話になったが、ペットの世話は母親が行なっており、最初に感じた問題点の払拭はできなかった。
続いて田代がお邪魔した岸田家だが、訪れた時、すぐにリビングに通され、家族全員が集まっていた。今度の場合、子供は女の子で、留美という。ペットの猫もその場にいた。
「初めまして。1週間お世話になる田代と言います。よろしくお願いします」
田代は全員に挨拶をした。でも、娘の留美の反応が今一つだ。改めて留美の目を見て再度挨拶をした。
「田代です。よろしくね」
そう言うと留美は母親の後ろに隠れた。
「すみません。留美は人見知りなんです。初めての人に会うと、すぐに隠れるんでよ」
「そうですか。でも、今はちょっと物騒な世の中ですから、知らない人に声をかけられても付いていかないでしょうから、その点は安心ですね」
田代は少しでも雰囲気を悪くしないように言葉を繕った。
ただ、ペットに対する愛情は深いようで、母親の後ろに隠れた時、猫を大切そうに抱きかかえていた。田代は心の中で留美の優しさのようなところは感じていた。
ただ、滞在していた1週間、留美は多少心を開いてくれたが、まだ十分ではなかった。そのため、モニターをお願いした場合、子供への影響を心配した。