「では正男、今度はベッドから降りて」
正男はまず上半身を捻り、その上で下肢を左方向に動かし、床に足裏を着けた。
この時の動きも一つ一つに間が空き、どうしてもロボット感がぬぐえない。正男の様子がロボットそのものの外観であれば違和感はないが、人間のような見た目なのが災いし、動きに違和感を感じる。
「これだけのことでも動きに問題があるな。メカ的には細かなところで工夫が必要だ。各接合部分の滑らかさと同時に、身体の各部位の重心の移動がデジタルではなくアナログで動けるようにしなければ・・・。デジタルで研究し、それをアナログにしていく、というところが変な感じだが、俺たち人間はアナログの生き物だからな。そういう感じが当たり前の感覚なんだな」
別のメカ担当の研究員が言った。
「私、何カ変デスカ?」
初めて正男が自分から疑問を呈した。
「おっ、正男が人間のような疑問を持ったようだ。感情を含む、知能系のソフトは正常に機能しているようだな」
研究全体を司令塔になっている岡田が言った。
「岡田主任、会話のやり取りについてはいろいろなシチュエーションでやっていけば、現時点でも何とかなるかもしれませんね。途中、何か不具合が生じるかもしれませんが、出荷前ですからいろいろ想定して対応しましょう」
ソフト開発の研究員が言った。
メカの担当者は着せてあった着衣を取り、腰や下肢の様子を点検している。その際、それぞれの部位ごとに確認。調整をしようとしているが、動きのデータを取り、人間の動作と重ね合わせ、問題点の解消を図らなければならない。
「正男、こっちに来て」
その研究員は自分が立っているところまで歩かせた。その様子を画像で人間の歩き方と比較するためだ。
見た目は誰が見てもぎこちない。その様子を人間と比較することでより自然な動きができるようにするわけだが、技術的な限界もある。だからこそ、その壁を破るために研究するわけだが、そこにソフトの研究者から提案があった。
「視覚ソフトで得た情報をメカのほうで活用できるよう一緒に工夫しましょうか。AIが搭載してあるので、その学習機能を活用し、人間の動き方を学んでもらい、それを基にして動きを制御する、という方法はどうですか? もっとも、メカそのものがそれを可能にするものでなければなりませんが、この点は考えてもらうことにして・・・」
「分かりました。では、私はその方向で研究してみます」
この日、基本的な方向性を確認し、1ヶ月に渡って研究され、改良点が追加された。ベースとしてのクオリティはそれなりだったので、仕上がりのほうは当初予定していたレベルに達した。