研究室のベッドに横たわっていたロボットが目を開けた。先日までの金属的な身体ではなく、この時点では首から上に人工皮膚が施され、身体の部分は衣服も着用している。見た目は人間そのものだ。髪の毛や皮膚の質感など、設定通り20代の男性そのもので、表情も落ち着いている。
「AMK1号が目を開けたぞ」
通電後、起動し始めるまでかたずをのんで見守っていた研究員から安堵の声が聞こえた。人間に近い存在であるためには、いろいろな要素が必要となるが、複雑な分、これまでの試作品の場合、失敗もあった。というより、失敗の連続だったから、実際に駆動させてみて初めて第一段階をクリアした、という感覚になったのだ。
まず確認したのは、目を開けた後、会話ができるかどうかの確認だった。
「おはよう」
主任研究員の岡田が声をかけた。
「オハヨウ・・・ゴザイマス・・・」
事前に会話用のソフトはインストールされていたが、実際の会話となると人間の言葉が認識され、その上での返事になる。初めての会話ということで、朝の会話の感じになったが、まだ話し方はたどたどしい。当然のことだが、反応時間の適正化が必要になる。その微調整はいろいろな会話シーンを経験した上で行なうことになった。人間の家庭に預ける場合、最低限の会話は必要であり、対応できるだけの状態にしておかなければならない。
「君の名前だが、2つある。一つは製品番号だが、AMK1号という」
「AMK1号デスカ。気ニ入リマシタ」
「気に入りました、って言ったぞ。人間でいうところのリップサービス的な返事だろうが、会話ソフト担当の俺として嬉しい」
研究員一人が言った。
「もう一つの名前だが、人間社会では正男という」
「正男デスカ。コレモ良イ名前デス。アリガトウゴザイマス」
「これからは正男と呼ぶので覚えて欲しい」
「分カリマシタ」
「では正男、上半身を起こして」
会話の確認時、正男はまだ横になったままだったので、躯体を動かしてもらうことにした。
この時の動作は機械的で、滑らかさはない。動く際、少し機械音が聞こえることが気になった。
「動きが気になりますね。後でチェックしておきます」
メカ担当の一人が言った。より人間らしくを目指すなら、動きのぎこちなさはNGだ。製造過程での問題なのか、設計の問題なのかはこの時点では分からないが、だからこそ確認が必要になる。
研究室から出荷する場合、会話にしても動きにしても預ける家庭のストレスにならないように注意することが必要になる。会話できる内容はともかく、それぞれの人が普通に受け入れられる程度の会話や動きであることが求められる。その上で、人間らしい感情を育てていくというのが今回のプロジェクトなのだ。