「お前は誰だ?」
鏡に向かって「お前は誰だ」と言い続けると、やがてその人は発狂する・・・・・・という都市伝説がある。本当だろうか。そんな馬鹿な話はない。興味本位で試してみようなどと思ったのが間違いだった・・・・・・。
「お前は誰だ?」
わたしは自分の姿が鏡に映るたびに、「お前は誰だ?」という質問を繰り返した。
「お前はいったい誰なんだ?」
そんなことを続けてひと月が過ぎようとしたある日のこと、なんとなく鏡の中の自分に変化が現われたような気がしてきた。
ちょっとした表情が違うように思うのだ。
「お前は誰だ?」
わたしは無表情につぶやいたのだが、鏡の中のわたしの目や口元が笑っているように見える。
「お前は誰だ?」
わたしは笑顔で声を出したはずなのに。鏡の中のわたしはなぜか
「お前は誰だ?」
ある日鏡の中に映っているはずの自分の姿が消えていた。わたしは
そのとき不意に背後からわたしは肩を叩かれた。
「!」
「どうしたんだ?」
それはわたしの友人だった。
「ああ・・・・・・驚かすなよ。実はわたしの姿が鏡に映らなくなってしまったんだ」
友人は不思議な顔をして鏡をのぞき込んだ。
「なにを言ってるんだ。最初から鏡に映るわけないじゃないか。だってぼくらは吸血鬼なんだぜ」
そう言って友人は二本の白い牙をむき出して笑った。
ああそうだった・・・・・・じゃあ今まで映っていたのはいったい誰なんだ!?