“チチキトク スグカエレ”
姉から電報が来たのは4月1日の午前中だった。
「なんだよこれ」
ぼくが後藤家を勘当されてから、すでに10年が経過していた。こともあろうに今日はエイプリルフールではないか。
「ふざけるなよ」
ぼくは姉の
“はい”
「もしもし、おれだけど」
“
「家だけど」
“あんた、携帯電話の番号変えたでしょ。番号教えてこないから電報を打っちゃったじゃない”
「なに危篤って。本当かよ。エイプリルフールだからって、おれをかついでるんじゃないだろうな」
“なに言ってんのよ!今すぐ帰って来なさい。こっちは大変なことになっているんですからね”
一方的に通話が切れた。なるほど、どうやら
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ぼくは父が苦手である。
父は会社を経営しており、仕事以外に興味がなく、家庭のことなど
ぼくが大学卒業の時に進路のことで衝突して父に勘当された。それ以降一度も後藤家の敷居を
実家の玄関を開けると、おふくろが黒い着物を着て出て来た。間に合わなかったか・・・・・・ぼくが一瞬そう思ったとき、モーニング姿の父が現れた。
「なんだ拓海か。帰って来たのか」
父はピンピンしていた。くそ!
「あら、ちょうど今出かけるところなの。お姉ちゃんと待っててね」と母は優しく言う。
「どこへ?」
「お父さんの授章式じゃない。お父さん
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「どういうことだよ」
ぼくは
「お父さん、引退してから社会奉仕活動に熱心だったでしょう」
「へえ、そうだっけ。知らない」
「ボランティア活動のボスみたいなことやっていたのよ。強引に政治家を動かしたりして」
「ふうん。でも姉貴、いくらエイプリルフールだからって
わたしは姉の顔の前に電報を突きつけた。
「嘘じゃないわよ」
姉はその電報をひったくって、ボールペンで文章を書いてよこした。
「はいこれ。あたしは“父
「なに“奇特”って」
「父の言動が優れていて
「なんだそれ」
その時ふいに電話が鳴りだした。 姉が出る。
「え、本当ですか」姉が受話器を
「拓海、母さんが倒れたって!」
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病院につくと、母はベッドに横たわり顔に白い布が掛けられていた。急性
姉はベッドにすがりついて泣き崩れた。ベッドの脇で、モーニング姿の父がうつむいて立っていた。父はぼくに目を移すと、小さな声で言った。
「すまなかった・・・・・・」
ぼくは父の前で、かつて一度もしたことがないことをしてしまった。
ぼくは父の胸の中で泣いた。
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余談になるが、この時母はベッドの上でこう思っていたのだそうだ。
いつ起き上がろうかしら・・・・・・。