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ヲタクで社畜の俺が異世界でハラスメントされた件(PR)
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田原にか(たらはかに)
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月30日
公開日
3,406字
完結済
異世界転生した主人公は、パーティーに入れてくれた勇者に思いがけない態度を取られるが・・・・?

第1話

「宿に帰ったら、あとでメルヒダの森の空き地に来てくれるかな」

 男魔導士の俺に勇者が耳打ちした。初めての異世界転生で戸惑っている俺のモチベーションアップをコミットメントしてくれてるのだろう。キメラスライムへのフィニッシュを決めた俺へのベネフィットか。褒めて伸ばす併走型のマネジメントができるタイプの勇者なんだろう。転生前のブラック企業とは大違いだ。何が【アットホームで笑顔の絶えない】職場です、だ。


 宿に戻ってから、勇者との1on1にワクワクしながらメルヒダの森へ向かった。ゴールドをくれるのだろうか。それとも伝説の武器を譲ってくれたりするのだろうか。指定された空き地に到着すると、勇者は既にファイヤードラゴンの木の切り株に座っていた。そして俺を見かけるなり、全てを包み込むような笑顔で近づいてきた。「バトル、サンキューな」と呟いた直後、俺の顔を一発殴った。


 ――1.身体的な攻撃


 勇者は頬を押さえてうずくまった俺に怒鳴った。

「バトルの常識知らないのか? 風属性の魔法はスライムの粘液が飛び散るだろうが!」

 殴られた衝撃で返事ができなかった。そんな俺に向かって勇者は罵倒を続けた。

「パーティーから外すわ。お前みたいはクソ魔導士の代わりはいくらでもいるからな」


 ――2.精神的な攻撃


 そして勇者は俺の肩を叩いて、小さくつぶやいた。

「明日は一人でタルナヤの洞窟行って来いよ」

 あの洞窟は魔法の通じないモンスターがゴロゴロいると聞いている。

「魔道士一人は無理です!」


 ――3.人間関係の切り離し


 俺は首を振った。

「だったら、魔王デスマルガを一人で倒して来いよ」

「ラスボスを?」


 ――4.過大な要求


「じゃあ、そこら辺でネズミウミウシ倒してろよ」

「経験値1じゃないですか。一日中倒してもレベル上がらないですよ」


 ――5.過小な要求


「レベルなんか要らないだろ。低レベ顔してるし、恋人もできないだろうし」


 ――6.個の侵害


 ズビーユの酒場に男戦士の笑い声が響き渡った。周りの旅人たちがこちらを見る目が冷たい。

「笑い話じゃないですよ」

「ごめんな。あの勇者、パワハラの6分類、完全制覇してるぞ」

 勇者に理不尽に怒られた夜、男戦士を誘って酒場で相談に乗ってもらっていた。彼は異世界転生の熟練者だ。

「そんな分類あるんですか?」

「まあ、この世界でパワハラなんて存在しないけどな」

 男戦士はズビーユ特製ワインをグビリと飲むと、俺の頭をポンポンと叩いた。

「俺、どうしたらいいんでしょうか。明日から魔王討伐に参加するの嫌です。討伐って有給休暇はないんですか?」

「あるわけないだろ。給料だってないよ」

「じゃあ、ボーナスも?」

「そりゃそうだよ。異世界は勇者がお金を一人占めするのが基本」

「マジすか。なんで俺、トラックに飛び込んだんだろ」

「もしかして異世界転生すればチートスキルで最強になってあらゆるタイプの女にモテまくるって思ってた?」

「はい」

「さては社畜で童貞だった?」

「月の残業時間は200時間です。年齢と彼女いない歴は同じで母以外の女性とは話したこと無いです。あと性格も悪いって親に言われます」

「素質は完璧だな」

「トラックに飛び込んだ後に目を開けたら、目の前にスライムがいてガッツポーズしました」

「ちなみに前の世界から何かスキル持ってきてる?」

 俺は首を振った。

「何でもいいんだぜ。料理できるとか、鑑定できるとか。論破だっていいし自動販売機だったり通販とかできるスキルもあるぞ」

「何もないです」

「手にスキルつけろって言われなかった? それじゃハイクラス異世界にリーチできないよ。ここはベンチャー異世界だから即戦力じゃないと」

 男戦士はあきれ顔だった。しかし俺には考えがあった。

「男戦士さん、何度も異世界転生してるんですよね。俺、もう一回転生したいです」

「もう一回? おススメしないけどなぁ」

「じゃあ、なんで男戦士さんは何度も異世界転生したんですか?」

「俺はその世界が平和になったら次へ転生することにしてるんだ。世界平和、いや全ての異世界平和を目指してるからな」

 自信ありげに胸を叩いた。

「俺は自分が平和ならそれでいいです。お願いします。トラックに飛び込ませてください」

「親の言う通り、性格悪くていいね。この世界はトラックないからな。ブラッディサタンmk2 Revolutionの群れとかどう?」

「何ですか、その変な名前」

「ファンタジーの世界も価値観をアップデートしてるんだよ」

「スマホもない世界でアップデートとか言わないでくださいよ」

「あるよ、スマホ」

「え?」

「百年前に魔王デスマルガを封印したのは一台のスマホだった」

「そうなんですか?」

「そして復活した魔王デスマルガを再び封印するために、フリック操作ができる勇者を探し求めているんだ。あの勇者はこの世界でフリック操作ができる唯一の男なんだ」

「フリック操作って、あのフリック操作ですか?」

 俺は人差し指であたかもスマホをいじるかのように男戦士の盾をなぞった。男戦士は驚愕の表情で俺を見つめた。

「まさかお前……フ、フリック操作ができるのか?」

「そんなの誰でもできるでしょ」

「まずい、まずいぞ。お前がこの世界にいるとフリックの均衡が崩れる」

 フリックの均衡の意味が全く分からなかったが、男戦士は俺にある提案をした。

「転生させてやるよ。でも、せっかく転生するなら勇者に復讐してみないか?」


 男戦士の話はこうだった。


 勇者と俺が決闘をする。勇者には俺が魔王の生まれ変わりだから決闘で殺すように戦士が伝える。しかし集まった民衆には、偽物のフリック使いがいるから本物を見つけるためにフリックだけで決闘をすると伝える。

 そして決闘で勇者が俺を刺し殺せば、民衆はフリックを使わなかった卑怯者として勇者を街から追い出す。そして刺された俺はめでたく次の異世界へ転生する。


「転生といえば、トラックか刃物に刺されるか、二択だからな」

「完璧じゃないですか!」

 そして異世界の最後の夜が更けていった。


 次の日、街の中央で俺と勇者はフリックの決闘を行うことになった。

 後に語り継がれることになる【フリックの決戦】である。

 俺は人差し指を勇者の前で揺らした。勇者は俺の挑発に苛立ったのか、決闘開始直後に一瞬で勇者の剣で俺の胸を貫いた。


 勇者の顔は魔王を倒した喜びに溢れていた。俺は勇者にこの後降りかかる悲劇を思って微笑んだ。


 ――闇が俺の脳内を支配した。


 そして、俺はゆっくりと目を開けた。


 そこは、見慣れたアスファルトやコンビニは無かった。土の匂い、モンスターの鳴き声。また異世界に転生していた。俺は手に剣を握っていた。さっき俺の心臓を貫いた勇者の剣にそっくりだ。そして足元に先ほどまで自分だった男魔導士が胸から血を流して倒れていた。

 街の人たちだけでなく、そこにいた全ての人たちが俺を睨んでいる。これは男戦士のシナリオ通り、とんでもない目に遭うことになりそうだ。勇者の俺が。

 俺の予想と違っていたのは、胸から血を流して倒れていた男魔導士が一瞬で治癒されたことだ。周りを見渡すと、人ごみの後ろにいた男戦士と女僧侶が俺の視線を感じて姿を隠した。そして男魔導士は立ち上がると「俺ホントはフリックできなかったんだ。スキル、サンキューな」と囁いた。

 転生じゃなくて入れ替わり?

 まさか勇者と男戦士はグルだったのか?

 俺は騙されたのか……



 転生してみたら、ハラスメントな異世界だった。

 悪質な転生エージェントに騙された。


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 俺はフリック操作で広告を消すと、明日から始まるエイリアンとの最終戦争に使う武器を眺めていた。

 勝てるわけ無い。大気圏を越えてくる異生物に丸太のハンマーで立ち向かうなんて。

 先ほどの広告のサイトにアクセスした。そして一つの異世界とマッチングした。


 どうやら株式会社というギルドに所属し、サラリーマンと呼ばれるジョブで転生できるらしい。ギルドの説明文を読んでみた。


 【アットホームで笑顔の絶えない職場です】


 どこかで見たことがある気がしたが、気のせいだろう。諸々の条件を書き込んで応募のボタンを押した。






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