医者「本日はどうされました?」
患者「ちょっと仕事早く終わったんで寄ってみたんです」
医者「行きつけの飲み屋じゃないんですよ」
患者「すいません大将」
医者「大将って呼ばないでください」
患者「じゃあせっかくなんで診察してもらっちゃおうかな」
医者「何か症状がありますか」
患者「驚かないでくださいよ……実は歯が痛いんです」
医者「驚かないです」
患者「右肘のあたりの奥歯が特に」
医者「驚きました」
患者「進行してると抜くことになりますか?」
医者「そうですね。状態にもよりますが」
患者「まあこの際だし、バッサリ抜いちゃってください」
医者「髪切る時のノリで注文しないでください」
患者「夏だし」
医者「涼しくならないですよ」
患者「そうだ!せっかくなんで歯見ていきます?」
医者「あなたに言われなくても見ます」
患者「好きですねえ。先生も」
医者「黙って口開けてください」
患者「…………どうれふか?」
医者「あー奥の方かなり虫食ってますねえ」
患者「第一大臼歯と第三大臼歯のとこでしょ?そこのカリエス、C3まで進行しちゃってる感じしますよねえ」
医者「口開けてんのになんでそんなハキハキ喋ってんですか。どうやってんですかそれ」
患者「あ、あと反対側の奥も見てもらいたいんですが」
医者「どれどれ……」
患者「いい形してるでしょ」
医者「自慢したいだけなら終わりますね」
患者「先生……どうでしたか……うちのタカシの状態は‥‥」
医者「歯に名前つけてる人初めて見ました」
患者「うちのタカシは……タカシは助かるんですか!!」
医者「まあ助かるかどうかで言えば手遅れですね。抜きましょう」
患者「そんな!どうして!!」
医者「あなたがお菓子ばっかり食べてるからです」
患者「そんな証拠がどこにあるんですか!」
医者「ポテチのカスが詰まってました」
患者「先生…手遅れって……じゃあタカシはどうなるんですか!」
医者「もう逃げられないと悟って話題を戻しましたね」
患者「本当にもう抜くしかないんですか……」
医者「ええそうですね。残念ながら」
患者「じゃあ最後にタカシでフランスパンを噛み締めてもいいですか」
医者「いいですけど超痛いですよ」
患者「じゃあやめます」
医者「素直でいいですね」
患者「先生……これから僕はどうすればいいんですか…………」
医者「おかし食べるの少し控えて歯をよく磨いてください」
患者「ウッ……わかりました……心を入れ替えます…………」
医者「泣かないでくださいこんなことで」
患者「僕もう二度と先生を悲しませないと誓います」
医者「別に悲しんでないです」
患者「もし僕が更生したら、またあの頃みたいに『ハニー』って呼んでくれますか」
医者「呼びません」
患者「じゃあ先生……心残りですが僕帰りますね」
医者「そうですね」
患者「さよならダーリン」
医者「ダーリンって呼ばないでください」
患者「次がいつになるかはわかりませんが……たとえ5年後、10年後になったとしても必ずまたこの場所に帰ってきます!」
医者「来週来てくださいね。お大事に」