うぅ……ここはどこだ? 天国?
「お目覚めになりましたか」
うわっ、あんた誰だ? もしかして……神様?
「はい。あなたは死にました。これから転生していただきます」
マジかよ、死んだのかよ俺。じゃあできるだけ良い所に転生させてくれよ?
「では通常ガチャを一回、無料で引いていただきます」
するとどうだろう――スロットマシンみたいなゴージャスな色合いの機械が、俺の前に突然出現したではないか!
上部を覗き込めば、何やら景色の映った無数の玉が詰め込まれているのが窺えた。
レアリティもきちんとある。レアのRから、スーパーレアのSR、さらに上のSSR……。
「投入口にコインを入れていただき、レバーを倒せば、異世界が規定数排出されます。その中から一つ、転生先とお選びいただけます」
「なんでそんなシステムにしたんだよ……」
とはいえ、好奇心をそそられた俺は、レバーを倒してみる。
ゴロゴロン、と排出口から叩き出された青玉を手に取ると。
表面に、ステータスらしき表記が映し出されていた。
★★★ それなり世界(レア度:R)
【身分】平民の長男
【チート】スキル鑑定
【危険度】中(たまに魔獣)
【文明】中世ヨーロッパ
【寿命】70年
※リア充確率50%
「んー……中の下ってとこか? もっといいのないの?」
「こちら、カタログとなっております」
パンフレットを渡してもらい、目を通す。
「うお、SRから先はマジで世界違うな。SSRに至っては【身分】勇者の生まれ変わり、【チート】全スキルコンプ済やらが当たり前みたいにあるぞ。排出確率はどれも0.1%か……」
「ご参考までに、10連で回す場合は、最後の1回にSR以上の保証がついております」
もしSSRを引ければ、びっくりするくらい条件の良い異世界へ転生できる可能性がある訳だ……俺はコイン投入口を見やる。
「俺、今は一文無しなんだけど」
「では、使用できるコインを査定させていただきます」
「へぇ……俺の人生、なんぼなのよ?」
「平凡な会社員として、波風もなく……評価は平均的ですね」
「うるせーな」
「死因を確認いたします。飲酒運転中の事故死……」
神は小さく首を振り、コインを差し出した。
「これだけかよ!?」
「飲酒運転は大幅な減点対象となっております」
「良くて、100回がせいぜいだぜ!?」
「そういう規定となっておりますので」
ガチャを100回引ける程度の人生かよ、俺。お役所仕事め……だが逆に、燃えて来たぜ。
「こうなったら10連コースで回してやるぞ!」
残りコイン100枚。10連なら10回引ける計算だ。SR以上確定枠が10個、加えて通常枠で90連分の確率上乗せ。
10連は一回につき9枚の単発ガチャに、SR確定が付く形か……。単発なら100連打てるが、それじゃ保証無しだもんな。どう考えても10連の方が得だ。
SSRの夢を見るなら、これしかねぇ!
「よし……回すぞ!」
レバーを一気に引き倒す!
中で玉がかき混ぜられ、排出口へ向かって吸い込まれていく。
一個目、青い光を纏って転がり出る。これは通常演出か。レアリティはR。
二個目も青。三個目も青。四個目も五個目――。
「ガチャの演出は、前任者が特にこだわった部分です」
「ほう」
「SSRが出た時の光の演出なんて、彼が三日三晩寝ずに……」
「……うお! 玉の色が変わった!」
青玉に無数の亀裂が入り、爆音を伴って破裂していく。
中から現れたのは金色の玉だ。これは期待できる!
が……。
「――なんだよ、SRかよ!」
ただのSR確定枠じゃねぇか……。
「うぅ……SRは出たけど、SSRじゃないのがなぁ」
「確率通りの結果かと」
「くっ……もう一回だ! 10連!」
だが次もあえなく爆死。気づけば俺のコインはすっからかんとなっていた。
「なんでだあああああ!!」
「この中から転生先をお選びになって下さい」
「ま、待ってくれよ! 他に回す方法はないのか……!? 消化不良もいいとこだ!」
「……では、課金システムをご紹介しましょう」
か、課金システムっ!? 思わず俺は身を乗り出す。
「記憶をコインに変換する機能です。あなたの生前において、重みづけの深い記憶ほど、多くのコインが得られる仕組みとなっております」
「き、記憶かぁ……ちょっとなあ」
しょぼい人生だったと思うけど、それなりに大事な思い出くらい、一応あるんだよな。
「……な、なぁ。もし転生して、また死んだ場合、ここに戻って来られるか……?」
「ガチャ実装期間内であり、あなたがお望みであるならば」
よし、と俺は会心の笑みを浮かべ、一つの異世界を取り上げた。
レアリティこそRだが、同じ異世界を何度も排出し、それらを合成する事でステータスを強化。実際にはSRにもひけをとらない逸品へ育てあげたものである。
「俺は……この異世界に転生するッ」
転生した俺は、健やかに育ち、仲間を連れ、勇者として魔王へ挑んだ。
だが――。
「予想外につえぇぞ、この魔王! 苦戦しちまってる……!」
冗談じゃない! 普通に負けたら凡人評価だ!
それに可能なら、周りの仲間も神の所に連れていきたい。事前に、新規会員紹介はボーナス対象という説明を受けていたからだ。
「……皆聞いてくれ。実は死んだらガチャが引けるんだ」
ガチャシステムの事を、手短に話す。
「例え死んでも、幸せが約束されてる! だから一か八か、最後の自爆に懸けようぜ!」
そうして俺は、仲間達とともに仲良く爆発して果てた。
神の下へ、俺は戻ってきた。
「使い捨て世界にしちゃ文句のつけどころのない人生だったろ! いくらになる!?」
「見事な散り際が評価されています」
引き連れた仲間達ともども、渡されたのは、今までにない大金。
やった! ボーナスだ!
これで沢山……沢山ガチャが回せるッ!
「あなたが転生している間に、新たなガチャが追加されました」
「――なんだって? 見せてくれ!」
「今回は、期間限定ガチャとなっております」
「期間限定ガチャ……だとおおぉぉぉ!?」
どんなソシャゲでも、最新キャラやアイテムの方が、インフレして強くなる。
ならこの期間限定の方が、より条件の良い異世界ばかりに違いない。
「補足として、200連で天井……つまり10ポイントずつ溜まり、200ポイントでお好きな異世界と交換していただけます」
「うおおおおお!! やるぜお前ら!」
俺はいまだ困惑気味の仲間達へ振り返り、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「戦士は体力を活かして回し続けろ! 魔法使いは運強化魔法で補助! 盗賊は出玉の履歴から取得済みの異世界リストアップ、それと排出確率の計算頼む!」
こうして俺達は、総がかりでガチャを回し始めた。
結果として、SSRは何個か出たが、もっと上があるだろう……と、もどかしいレベルにとどまったものばかり。
最近神に聞かされた話だが、どうやらマシン内にはカタログにない、URなる最高レアリティがあるらしい。
前任の神は、そのURを引いた事で、さらに昇進できたとか――。
ならば狙うはUR。苦肉の策で、俺は課金システムを皆に伝える。
「俺は自分の記憶を一部課金する! 他に我こそはという者はいないか!?」
「こうなれば、俺の記憶を使えい! ここまで来たら、もう止まれん!」
全員の記憶を提供するが……。
「査定の結果、戦士様の記憶は……戦闘シーンのみで、ほぼ無価値となります」
「なっ!」
「お前、戦い以外の事覚えてないもんな」
「おのれ、言い方というものがあるだろうッ? というかお前達誰だ!?」
クソ……これでもコインが足りない。
コインが欲しい。もっともっと回したい。コイン、コインが欲しい――!
「こうなったら、再び異世界へ出稼ぎに行こう!」
溜まるまで、そう何度でもだ!
次の異世界では、人々にガチャの魅力を伝えて回った。
死んでガチャを引けば、今よりも良い世界に行ける、と――。
その努力が実り、俺達は強力な爆弾を開発する事に成功。
「さあみんな、もっと良い世界に逝くぞー!」
「おー!」
自分達の世界を爆破する事で集団自殺し、世界の住民全てで、神の所へ押しかけた。
だが――神は珍しく含み笑いを浮かべて。
「実は私も、ついさっきURを引けたところでして、昇進が決定しました」
「え?」
「つきましては、後任の神を紹介しますね」
現れたのは、さらに別の神。
「真実力判定システムにようこそ。ガチャの誘いは「騙し」として、記憶を売った事実は「改竄」として、自殺の誘いは「殺人教唆」として、それぞれ減点対象となります」
「ふざけんなあああ!!」
こうして俺は地獄に落ちた。
でもガチャはあるらしいし、URさえ引ければ天国へ戻れるという。
俺の闘いはこれからだ――!