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第24話 探すべき想い

 ある日の朝、ときこは目覚まし時計の音を聞いて起き上がる。そして寝ぼけ眼でしばらくボーっとして、それから目を見開く。


「あかりちゃん? 今日は起こしてくれなかったんですか?」


 そう言いながら、ときこは目覚まし時計を止める。いつもなら、あかりが止めている目覚まし時計を。そして、事務所の中を歩き回っていった。あちらこちらを見回しながら。少し眉を困らせながら。それでも、ときこの足取りは軽かった。


「かくれんぼですかー? あかりちゃーん?」


 冷蔵庫を開けると、多くの料理が冷凍されていた。和洋中、様々に揃っており、小分けにされている。それぞれの袋に、期限が書かれていた。


「作り置きなんて、珍しいですねっ。いつも、できたてを食べているのにっ」


 首を傾げながら、ときこはこぼす。疑問を抑えきれないような様子で。それから、次は倉庫の中に入っていった。いつも通りに整理整頓されている。ただ、依頼に関する資料だけが消えていた。


「依頼について振り返っているんですかっ。あかりちゃんは真面目ですねっ」


 軽くうつむきながら、ときこは語る。自分に言い聞かせるかのように。何かから、目をそらすかのように。


 続いてときこはトイレや風呂の扉を開く。トイレには多くのトイレットペーパーが補充されており、風呂のシャンプーや石鹸なども同様であった。同時に、とても清潔に掃除されていた。


「綺麗好きだからって、やり過ぎですよっ。もう、業者さんじゃないですかっ」


 むくれたような声色で言いながら、ときこは用意されていたシャンプーや石鹸などをじっと見ていた。そこに何かが隠れているかのように。しばらくして、ときこはため息をついて風呂から出ていった。


 ときこは最後に、普段依頼を受ける部屋へと向かった。そこの中心にあるテーブル、その上に封筒が置かれていた。


「ときこさんへ? 今日は私の誕生日じゃないですよっ。サプライズなら、間に合ってますっ」


 面倒そうに言いながら、ときこは封筒を開く。その中には手紙が入っており、こう書かれていた。


 ――宗心探偵事務所を続けていくことに、限界を感じました。このままではダメなので、調べ物をしてきたいと思います。宗心探偵事務所がこのままで良いのか、整理してきますね。用意しておいた食事や道具が無くなる前には、戻りたいと考えています。


 ときこは手紙を両手で持ちながら、何度も何度も読み返していた。しばらくして読むのをやめ、両手から力が抜ける。手の隙間から、手紙が落ちていった。とても強い悲しみに襲われているかのように。


「あかりちゃん、私が嫌いになっちゃったんでしょうか……。だから、距離を取りたくて……」


 かすれたような声で語られ、ときこの目にわずかな涙が浮かぶ。こぼれ落ちる寸前に、ときこ自身が袖で拭った。悲しみを振り払おうとするかのように。そしてときこは前を向き、深呼吸する。自分を落ち着けるかのように。


「絵馬の時には、やはり私には分からないのですねって言っていました。それってつまり、呆れていたから……?」


 かつてあかりは、ときこが今が一番幸せだという気持ちはどんなものかを訪ねたときこに、目を伏せながら返していた。その様子を思い返すかのように、ときこはうつむく。


 再びときこの目から涙がこぼれそうになり、もう一度袖で拭う。そして慌てた様子で袖を目元から話し、ポケットに手を入れてハンカチを取り出そうとして、何もない事に気づく。それは、あかりがいつもハンカチを用意している証そのものだった。


 ときこはポケットから手を出して、部屋をぐるりと見回す。何かを探すかのように。そしてため息をついてうつむく。何も見つけられなかったかのように。


「あかりちゃんは、ずっと私の世話をしていました。まさか、疲れてしまったんでしょうか……」


 ときこはじっと手元を見つめながら、口元を歪めていた。まるで後悔に浸るかのように。あかりとの思い出を振り返るかのように。


 しばらく止まったまま、ときこは黙り続ける。そして、大きく首を横に振った。自分の考えを振り払うような姿で。


「いえ、確証バイアスです。嫌いだという答えに、自分から近づいているだけですっ」


 深呼吸しながら、ときこはあごに手を当てる。どの情報が真実かを、ひとつひとつ確かめるかのように。十秒ほど黙り込んで、やがてときこは頷く。


「あかりちゃんは、去ると言っただけ。それだけが、事実なんですっ」


 ときこは手を数度握り直し、もう一度前を向く。まるであかりが視線に先に居るかのように、穏やかな顔で言葉を紡ぐ。


「まだ、何も分かっていないんですっ。私は、もっと知らないといけません。あかりちゃんの本当の気持ちに、たどり着くんですっ」


 自分に語りかけるかのように、胸に手を当てて語るときこ。そのまま、手紙を拾い直した。そして、まっすぐに前を見る。その瞳には、強い決意が込められているようだった。そしてときこは息を深く吸い、堂々と前を見た。


「この謎に隠された想い、解き明かしてみせますっ!」


 これまでのどんな謎に向き合った時よりも強く、ときこは宣言した。静かな部屋に声を響かせながら。そこには、必ずあかりの真実にたどり着くという意志がハッキリしているようだった。

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