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時計さんとテレビくん
根上真気
文芸・その他童話
2024年11月29日
公開日
1,197文字
完結
人間についてしんみり語る時計さん。そこにテレビくんがやって来て...。

第1話

 現在AM3:00。

 私の示す時間はAM3:10。


 私は少々せっかちのようだ。

 しかし、それぐらいを好む者もいるようなので、一長一短といえる。


 私は日々、時を刻んでいる。

 といってもそれはある意味どの生き物もそうだが。


 とにかく毎日、一分一秒ずつ、時を刻む。

 ただそれだけである。

 晴天だろうが雨天だろうが、雷が鳴ろうが嵐が吹き荒れようが、関係ない。

 桜が咲こうが百日紅が咲こうが山茶花が咲こうが寒椿が咲こうが、関係ない。

 楽しくもないしつまらなくもない。

 嬉しくもないし悲しくもない。


 時を刻む。

 それ以外は何もない。

 なのに人間という生きものは私達の動向をひどく気にするようである。

 もしくは気になるようである。


 これは私の個人的な見解だが、私達のことをあまり気にしない人間のほうが、何となく幸せそうに見えたりする。

 しかし、そういう人間を見て「この人は頑張っているな」とは思わない。

 頑張っている人間ほど、私達を気にする。

 しっかりした人間ほど、私達を気にする。


 そう考えると「何となく幸せそうに見える人」も、そうでもないように思えてくる。

 しいて言うなら「気楽」か、それとも「怠惰」か、はたまた「脱落者」か。

 それでも確かに私達のことを「何となくしか気にしない」実に穏やかな流れに生きる人間は確かに存在する。


 どちらが本当に幸せかはわからない。

 いずれにせよ、私達から逃れたいという気持ちは、人間だれしも大なり小なりあるようだ。

 人間の多くは、私達に縛られているような感覚を持っている。


 しかし、私は思う。

 私達は人間を縛ろうとなど、ただの一度も思ったことはない。

 そもそも私達は人間の手によって生まれたのだ。

 つまり、人間は私達にとっては親。

 産んでくれたことに感謝すらしているのである。

 言うなれば「親は子に縛られる」という感じだろうか。

 とにかく、私はこれだけは自信を持ってハッキリと言える。

「私達は時を刻む。それ以外のなにものでもない。何を感じどう思うかはすべてあなた方次第です」



「おまえは理屈っぽいなぁ」

 半ば呆れて面倒臭そうにテレビが言った。

「わざわざ当たり前のことを真理みたいに言われてもね~」

 時計以上にわかったような面構えで、イヤらしくニヤけながらテレビが続ける。

「俺だって時間示すしな。おまえよりも人間のことはよっぽどわかってるよ」


 時計はやや萎縮したようにまごついた。

「ま、まあ、その、なんとなくそんなこと思ったんだよね」

 そうしてバツの悪い思いでうつむくと、押し黙ってしまった。


 時計はテレビよりも、人間のことをずっと深く理解している。

 テレビは時計よりも、人間とずっと楽しく付き合っている。

 などと時計が考えていると......突然、横から鳥のようにスマホがやってきた。

 びっくりする時計とテレビに、スマホはあっけらかんと言った。


「うちらが一番人間のことわかってね?てゆーかテレビも時計もうちらに付いてっし」


 途端に時計もテレビもしゅんとした。

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