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第27話 刺客


 午後の授業もなんなく終わり、怜はハルカと図書館へ向かった。


図書館は二階にもあり、酸化したインクの匂いがする。


 少ししてヘブンがやってきた。ハルカはヘブンを見ると怜の後ろに隠れる。ヘブンはハルカに向かって指を差した。


「なんだその生き物は」


「この子は、クラスメイトのハルカ。図書館を案内してくるって言うからお願いしたの。ハルカ。この人は、私の友達のヘブン。鬼だけど大丈夫よ、むやみやたらに悪いことしないから」


 ハルカは小さくお辞儀をした後、怜に話しかける。


「怜。調べものがあったら手伝うよ。勉強になるし」


「ありがとう。でも、本当に手探りな感じだから時間かかっちゃうし、大丈夫よ。案内してくれてありがとう」


 ハルカはいいのと返事をする。


「何かあったら手伝うから。あの……あのね、良かったら友達になってもいい?」


 怜はニコリと笑った。


「もう友達じゃない」


 ハルカは嬉しそうに微笑むと、またねと言って図書館を出る。


「さてと、まず調べるものは……夢の中に入れる生き物についてよね。ナイトメア?」


「ナイトメアは俺が既に調べたが、関連はなかった」


「黒いマントを纏ってて、そして全体的に髪は長かった気がする。でもヘブンとは違ってうねってたわ。コウモリみたいな」


 ヘブンはパラパラと本を読んでは戻し、読んでは戻していく。


「お前との関連について調べてみたらどうだ。お前を狙おうとしてるやつを考えれば、もしかしたら答えがでるかも」


「狙うやつとしたら、天使かしら。でも、真っ黒な天使っているの?」


「異形な天使だっているんだ。調べてみようぜ」


 怜は天使について調べることにしたが、怜の知ってる内容ばかりであまりピンとこない。


 天使の系列をみていくうちに、堕天使の系列に入っていった。


「堕天使? あ、この本のイラスト。それっぽいわ。ねぇ、ヘブン」


 ヘブンは別の棚を調べていて近くにいない。


 怜はまぁいいやと、本を探していると、後ろから何者かに口を塞がれた。


〈誰……!〉


 黒ずくめの男が、二、三人やってくる。腰には剣を持っていた。


〈学園は安全って言ってたじゃない……!〉


 怜は男の足を思い切り踏み、怯んだ隙に頭突きを食らわした。


 そして、人気があるところまで一目散に逃げる。


 だが、男たちは追い付くと怜の頭を掴んで床に押し付けた。


「お前を始末する」


 黒ずくめの男は剣を振り上げたが、その瞬間に図書館の窓が砕け散る。


 男はいつの間にか別の剣で胸をひと突きされて倒れていた。


 他の黒ずくめの男たちは何があったのかわからず、別の窓から撤退する。怜は砕けた窓ガラスの先を見た。


 窓ガラスの先には、木々が生えており、その木の上の方に、男がいた。


 その男は黒いマントを身につけ、長くうねった黒い髪をしていた。顔は髪の毛のせいでよく見えなかったが、怜の夢に出てきた男性そのものだった。


「夢にでてきた……あなた」


 ヘブンが急いで怜に駆け寄る。怜は窓に近づき、姿をよく見ようとしたが、彼はマントを翻すと一瞬で消え去ってしまった。


「この黒ずくめの男たちはなんなんだ。既に倒れている。それに、窓ガラスも粉々だ。怜。大丈夫か?」


「夢に出てきた彼よ。彼が私を助けたの。あの人は一体何者なの?」


 襲われたことを理事長に説明しにいくと、理事長は眉間にシワを寄せた。


「生徒の仕業か、もしくは結界を破ってわざわざ入ったか。どちらにせよ違反行為だね」


「なんでわざわざそんなことを」


 ヘブンはメイシス理事長に尋ねる。


「それほどに、君を始末したい人がいるみたいだね。警備を強化させるけど、くれぐれも用心して。犯人がわかるまでは一人にならないように」


 怜はさらに尋ねた。


「あの、私を助けてくれた人がいるんです。黒いマントをつけてて、長いうねった黒い髪の。知ってますか?」


 理事長は首を横に振った。


「彼も侵入者かもしれないね。ライグリード男爵にもこのことは伝えておこう。安全は保証すると言ったばかりなのに、まさかこんなことになるなんて」


 二人は理事長室を後にすると、馬車に乗って屋敷へと帰る。


 怜は黙ってあのコウモリ男について考えていた。


〈あの人、私を助けてくれた。敵ではないみたいだけど、実際に夢の中で話したほうがいいのかな〉


「夢の中であの男に会うつもりか? やめておいたほうがいい。危険すぎる」


 見透かされていたのか、ヘブンが真剣な顔つきで意見を言う。


「もしかしたら味方かもしれないじゃない。誰かわからないけど。それにまたライグリードと寝るなんて嫌だからね」


「お前は不思議なやつだな。ライグリード様を拒むだなんて。あのお顔が嫌なのか?」


 怜は答えた。


「嫌じゃないわよ別に。たしかにハンサムだわ。でも、どうしてあんなに継ぎはぎだらけなの? 何かあったのかしら」


「さぁな。深くはきかないことにしている。俺も詮索されるのか嫌いだしな。だからこそ、ライグリード様は俺を右腕にしているんだ」


 怜はそれ以上はきかなかった。屋敷に戻ると、怜は部屋に入るなり、ベッドに横になる。


「先に寝てしまえばいいのよ」


 はじめての授業に疲れたのか怜はすぐに眠りについた。


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