午後の授業もなんなく終わり、怜はハルカと図書館へ向かった。
図書館は二階にもあり、酸化したインクの匂いがする。
少ししてヘブンがやってきた。ハルカはヘブンを見ると怜の後ろに隠れる。ヘブンはハルカに向かって指を差した。
「なんだその生き物は」
「この子は、クラスメイトのハルカ。図書館を案内してくるって言うからお願いしたの。ハルカ。この人は、私の友達のヘブン。鬼だけど大丈夫よ、むやみやたらに悪いことしないから」
ハルカは小さくお辞儀をした後、怜に話しかける。
「怜。調べものがあったら手伝うよ。勉強になるし」
「ありがとう。でも、本当に手探りな感じだから時間かかっちゃうし、大丈夫よ。案内してくれてありがとう」
ハルカはいいのと返事をする。
「何かあったら手伝うから。あの……あのね、良かったら友達になってもいい?」
怜はニコリと笑った。
「もう友達じゃない」
ハルカは嬉しそうに微笑むと、またねと言って図書館を出る。
「さてと、まず調べるものは……夢の中に入れる生き物についてよね。ナイトメア?」
「ナイトメアは俺が既に調べたが、関連はなかった」
「黒いマントを纏ってて、そして全体的に髪は長かった気がする。でもヘブンとは違ってうねってたわ。コウモリみたいな」
ヘブンはパラパラと本を読んでは戻し、読んでは戻していく。
「お前との関連について調べてみたらどうだ。お前を狙おうとしてるやつを考えれば、もしかしたら答えがでるかも」
「狙うやつとしたら、天使かしら。でも、真っ黒な天使っているの?」
「異形な天使だっているんだ。調べてみようぜ」
怜は天使について調べることにしたが、怜の知ってる内容ばかりであまりピンとこない。
天使の系列をみていくうちに、堕天使の系列に入っていった。
「堕天使? あ、この本のイラスト。それっぽいわ。ねぇ、ヘブン」
ヘブンは別の棚を調べていて近くにいない。
怜はまぁいいやと、本を探していると、後ろから何者かに口を塞がれた。
〈誰……!〉
黒ずくめの男が、二、三人やってくる。腰には剣を持っていた。
〈学園は安全って言ってたじゃない……!〉
怜は男の足を思い切り踏み、怯んだ隙に頭突きを食らわした。
そして、人気があるところまで一目散に逃げる。
だが、男たちは追い付くと怜の頭を掴んで床に押し付けた。
「お前を始末する」
黒ずくめの男は剣を振り上げたが、その瞬間に図書館の窓が砕け散る。
男はいつの間にか別の剣で胸をひと突きされて倒れていた。
他の黒ずくめの男たちは何があったのかわからず、別の窓から撤退する。怜は砕けた窓ガラスの先を見た。
窓ガラスの先には、木々が生えており、その木の上の方に、男がいた。
その男は黒いマントを身につけ、長くうねった黒い髪をしていた。顔は髪の毛のせいでよく見えなかったが、怜の夢に出てきた男性そのものだった。
「夢にでてきた……あなた」
ヘブンが急いで怜に駆け寄る。怜は窓に近づき、姿をよく見ようとしたが、彼はマントを翻すと一瞬で消え去ってしまった。
「この黒ずくめの男たちはなんなんだ。既に倒れている。それに、窓ガラスも粉々だ。怜。大丈夫か?」
「夢に出てきた彼よ。彼が私を助けたの。あの人は一体何者なの?」
襲われたことを理事長に説明しにいくと、理事長は眉間にシワを寄せた。
「生徒の仕業か、もしくは結界を破ってわざわざ入ったか。どちらにせよ違反行為だね」
「なんでわざわざそんなことを」
ヘブンはメイシス理事長に尋ねる。
「それほどに、君を始末したい人がいるみたいだね。警備を強化させるけど、くれぐれも用心して。犯人がわかるまでは一人にならないように」
怜はさらに尋ねた。
「あの、私を助けてくれた人がいるんです。黒いマントをつけてて、長いうねった黒い髪の。知ってますか?」
理事長は首を横に振った。
「彼も侵入者かもしれないね。ライグリード男爵にもこのことは伝えておこう。安全は保証すると言ったばかりなのに、まさかこんなことになるなんて」
二人は理事長室を後にすると、馬車に乗って屋敷へと帰る。
怜は黙ってあのコウモリ男について考えていた。
〈あの人、私を助けてくれた。敵ではないみたいだけど、実際に夢の中で話したほうがいいのかな〉
「夢の中であの男に会うつもりか? やめておいたほうがいい。危険すぎる」
見透かされていたのか、ヘブンが真剣な顔つきで意見を言う。
「もしかしたら味方かもしれないじゃない。誰かわからないけど。それにまたライグリードと寝るなんて嫌だからね」
「お前は不思議なやつだな。ライグリード様を拒むだなんて。あのお顔が嫌なのか?」
怜は答えた。
「嫌じゃないわよ別に。たしかにハンサムだわ。でも、どうしてあんなに継ぎはぎだらけなの? 何かあったのかしら」
「さぁな。深くはきかないことにしている。俺も詮索されるのか嫌いだしな。だからこそ、ライグリード様は俺を右腕にしているんだ」
怜はそれ以上はきかなかった。屋敷に戻ると、怜は部屋に入るなり、ベッドに横になる。
「先に寝てしまえばいいのよ」
はじめての授業に疲れたのか怜はすぐに眠りについた。