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第23話 買い物


「哲学に占星術に科学……それに何よ流血学って」



怜はヘブンの部屋で一緒に入学の準備をしていた。ヘブンはベッドの上で教科書を並べ、あぐらをかき、眉間にしわをよせている。



「学校には以前から行きたかったが……難しそうなものばかりだ」


「魔界にも学校があるなんて知らなかったわ」


「もっと無法地帯なところだと思ったろ? 場所によってはそんなところもある。ただ魔界にも秩序みたいなものがちゃんとあるんだ。それに自分のやりたいことをするためには知識が必要だろ?」



怜は入学に必要なものリストをチェックしていく。



「後は、運動着と鞄と木刀……木刀?なんでそんなものいるのよ」


「武道も学ぶから必要なんだ。俺は鞄が無いな。買い出しに行くか」


「ついでに服も買っていい? ライグリードの選んだ服ってゴスロリばっかりなんだもん。趣味なのかしら」



ヘブンはわかったと言って教科書を机に置き直す。



「街にでるときは、俺から離れるなよ。魔界は人間族の誘拐が多いんだ。人間族は地位が低いから奴隷にされやすい。現世でどんなに人を殺したりしても、彼らには我々と違って力がないからな。人間族と思われないようにライグリード様が貴族の服を用意してるんだ」


「そういうこと……? 待ってよ。学校では? 落ちこぼれの貴族扱いなんてライグリードは嫌でしょ」


「まぁな。ライグリード様の面子が丸潰れた。街だけでいい。学校は人間族でも安心して授業を受けれる。いじめとかは保証できないが。学校ではライグリード様のことは言うなよ」


「どんだけ一緒にされたくないのよ!」



ヘブンは怜を自室へ戻し、準備するように言う。彼は二、三人のメイドを呼ぶと、怜を貴族の服に着替えさせた。


黒と赤黒のフリルが多めな服、紫の大きなブローチをつけ、セミロングの髪を少し巻き、メイクをする。


着替えが終わって、屋敷の中央へ向かうと、ライグリードが怜のドレス姿を見て、ニコリと微笑む。



「よく似合ってるよ」



ライグリードは怜の手を取ってキスをした。怜は顔が赤くなり、扇子を広げて顔を隠す。



「気を付けて買い物にいっておいで。人間だったことがばれないように」


「い、いってきます」



怜は屋敷の入口にいるヘブンに手を振る。ヘブンは軍服を着て剣を提げていた。彼は怜を見るなり、少し顔が赤くなる。



「行くぞ。馬車を待たせてあるから」


「うん」



怜専用の馬車を用意してくれたのか、少し丸くて黒いレースが散りばめられた可愛らしいキャビンだった。


ヘブンは怜の手を取って馬車に乗せ、ライグリードの屋敷から少し離れた街へと向かった。



***



ブラックリバー街は古くからある街で、ここでならなんでも揃っているとヘブンは説明した。


馬車を待機場所に置いて、二人は街に向かう。


空は明るい紫色に覆われて、爛々としていた。床は石レンガが敷かれ、建物もレンガで出来ているものが多い。



〈ヨーロッパの街並みって感じね〉



怜はキョロキョロと辺りを見回すと、ヘブンが耳打ちした。



「キョロキョロするな。堂々としてろ。周りが見てるぞ」



周りの魔族たちは、異形の姿をしているものもいれば、人間に近い姿の者もいた。


怜はヘブンから離れずにまず通学用鞄と木刀を買う。その後、運動着と普段着を買いに女性専用の服屋へ行った。



「俺は入れないから、外で待ってるぞ」



怜はドレスを持ち上げて、服屋へ入り、洋服を選ぶ。服は奇抜なものもあれば大人しいものもあって、見るのが楽しくなった。


怜が服屋から出て、ヘブンを探す。だが、待ってると言ったヘブンの姿はない。



「あれ、どこ言ったんだろう……」



怜は服屋近くの噴水で座って待つことにした。色んな魔族が歩いたり、買い物をしている。


頭が烏で蛇の尻尾が生えている者も入れば、腰から下は獣の姿をし、腰から上は人間の形をしてるもの、様々だった。



〈魔界も社会っていうのがあるのね。不思議だわ〉



怜がボーッと周りを眺めていると、右から人間の姿をした魔族が三人で怜に話しかけてきた。


堕天使なのだろう。背中に黒い翼が生え、皮ジャンの上着とパンツを着て、ジャラジャラのチェーンをつけている。



「お嬢さん。今暇なんでしょ? 美味しい薬があるから一緒に遊ばない? 楽しもうよ」



魔界にもナンパがあるんだなと怜は思い、無視をする。



「無視するなんて酷いなぁ。君、どこの貴族? 一人だと危ないよ」 


「無視してんじゃねぇよお高く止まりやがって」 



怜は変わらず無視し続けていると、向こうから女性の声が聞こえた。



「おやめなさい!」



深い青色に金色の刺繍を施したロココ調のドレスを纏い後ろには付人を従わせた女性が立っていた。


長い紫の髪を軽くカールして流し、大きな紫の瞳に、薔薇色の頬の美しい女性だと怜は少しドキドキした。



「身の程をわきまえなさい。愚かな堕天使たちよ。貴族に軽々しく話しかけないで」



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