「私が始めて守護天使を任された主が生田隼人だった。守護天使の決まりは絶対に主に姿を現さないこと。人間世界の出来事に干渉をしないで、ただ彼らを魔族の手から救うことだった。だが、彼は私の存在に気づいていたのだろう。窓を開けてはいつも見えない私に話しかけていた」
怜は黙って話を聞く。デファネルは続けた。
「隼人は小さい頃、両親を事故で亡くし、親戚の家を転々としていたんだ。孤独だとわかっていても、彼は私の存在を信じて生きてくれた。私もそれに応えるように、隼人と悪魔の手から守ってきたんだ。だが、人間たちの行うあの卑劣ないじめからは守ることができない。人間たちのことに干渉してはいけない。あのいじめが彼を絶望へ叩きつけたんだ」
デファネルは片手で顔を覆い、悔しさで顔が歪む。
「魔族が関わってるとはいえ、魔族本人が出てこなければ私は戦えない。調査を続けている間に、隼人は屋上から飛び降りてしまったんだ。わかるか。隼人が毎日毎日私に助けてほしいと願っても、助けることができないこの無力さを! 隼人は最期に、私に会いたいと行って落ちていったよ。自殺した者の先は地獄だ。会えるわけがない。彼は今でも地獄の中で苦しんでいるんだ! それを魔族たちは臨んでいる! そうして、人の命を弄ぶ。これが魔族なんだよ」
「酷い……」
「それから私は上に掛け合って、人間に擬態して生田を殺した魔族を見つけようとしたんだ。わざとどんくさいフリをして、いじめのターゲットになり、やっと笹木野とその幹部たちまでたどり着いた。魔族との交信をどこかで行うはずだと尻尾を掴んだときに、君が現れて満月の会を知ったんだ」
デファネルは剣を満月の光にかざしながら、エネルギーを蓄える。
「君はまだ若い魔族だから、人間らしい心が残っている。だが、時が経てば君も変わるだろう。魔族のトップになる器であるなら尚更だ。私はこれ以上犠牲者を出したくない」
怜は光出す剣を見ながら、デファネルに言う。
「私を斬ることで世界が安全になるなら斬って。でも、私がトップになる器だとしたら、私なりのやり方で魔界を統治していくわ」
デファネルは怜を見る。怜の瞳は力強く輝いていた。
「信じていいのかい? 本当にトップになって、魔界を変えてくれる?」
怜はニッと笑ってみせた。
「任せてよ!」
彼は眉間にしわを寄せてしばらく悩んでいたが、ゆっくりと剣を鞘に戻した。
「ありがとう。デファネル」
デファネルは優しく微笑んだ。
「魔族に心を許してはいけません。デファネル。堕天されたいのですか?」
上空から、新たに一人の天使が舞い降りてきた。
デファネルよりも一段と神々しい光を放ち、背も2メートルはあった。
目は瞑ったまま、金色の長い髪を後ろに流している。
「メディエル様!」
「まさかここで危険分子に会えるとは思わなかった。これは好機です、デファネル。彼女を始末なさい」
メディエルはデファネルの上司なのだろう。怜はメディエルに問いかける。
「元はと言えば、アークエルが私を魔界に返したのがいけないんじゃない! 天界の報連相ちゃんとしてるのかしら! あなたアークエルは知ってるでしょ?」
メディエルは目を閉じたまま、怜に返す。
「そのことで彼は今、裁判の真っ最中ですよ。人間を天使にし、あなたを魔界におとしてしまったのだから。それ相応の罰は免れないでしょう」
「アークエルはなぜ危険をおかしてまでそんなことを」
「あなたは知らなくていい。あなたはここで始末されるのだから。過ちは正さないと」
メディエルはデファネルにやりなさいと指示をするが、デファネルは首を横に振った。
「できません……彼女は友達だから」
「魔族は友達ではない。敵です。卑劣で残酷な闇の生き物です。いい加減。目を覚ましなさい」
「できません! もう大切な者を失いたくないんです!」
怜はデファネルを見る。
「デファネル」
「ならば、仕方がありません」
メディエルはデファネルの光輝く短剣を抜くと、デファネルに向かって思い切り突き刺した。
「デファネル!」
「部下の始末は上司の仕事です。堕天されるくらいならここで消滅なさい」
デファネルは口から血を吐くと、膝から崩れ落ちる。怜は駆け寄ろうとしたが、メディエルが剣先を怜に向けた。
「どうしてこんな酷いこと!」
「魔族のあなたに言われたくありませんね。デファネルに会いたいならここで大人しく斬られなさい」
メディエルが剣を振り上げたその時、ヘブンが刀で剣を押さえつけた。
「ヘブン!」
「こいつは俺がやる。お前はデファネルを見てやれ」
ヘブンは刀を構え直すと、メディエルに攻めいる。メディエルは短剣を使って、ヘブンの攻撃を綺麗にいなしていった。