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第19話 デファネル


羽生利光は地上に降りた後、大きな翼を畳み本来の姿に戻った。背がすっと伸び、金色の短い髪に金色の瞳。アークエルの時と同様シルクの服を着ている。少し違うのは、ところどころに甲冑を着用し、短剣と弓を構えていた。



「我は天使デファネル。自殺した生田隼人の守護天使だ。やっと尻尾を掴んだと思ったらお前が黒幕だったのか。陰湿の貴公子イルめ。お前を消滅させてやる!」


〈まさか、羽生くんが天使だったなんて。守護主の敵のために今まで人間として生活してたってこと?〉



怜はデファネルをまじまじと見つめる。矢が刺さったイルは怒り狂い、腰が抜けて動けない笹木野を捕まえる。



「たかが天使に何ができる! 私の力を見せてやるぞ!」



イルは捕まえた笹木野を頭から喰らい始める。バリバリとぐちゃぐちゃと生々しい音がして、怜はグロテスクすぎる光景に恐怖し、吐き気を我慢した。


満足したのか、イルの体が大きくなる。先ほどの美しい顔からは想像できないくらいに、ところどころに角が生え、醜い姿に変わっていった。



「日比谷さん。下がってて」



デファネルはそう言うと、金色の矢を二本まとめて放った。だが、イルの皮が固いのかすぐに跳ね返される。デファネルは弓一式を捨てると、懐から剣を取り出し、イルに向かって攻撃した。


操られていた幹部たちを避難させないとまた食われてしまう。怜は倒れている六名を屋上の中へ避難させた。


その間、デファネルとイルは戦いを続けている。怜は何かできないかと思ったが、自分の無力さをただ思い知るばかりだった。



〈ライグリードとヘブンは助けてくれないだろうな。どうしたら……〉



イルがデファネルを引っ掻くとその弾みで短剣が投げ出された。怜はデファネルの剣を拾おうとしたが、剣は熱を持ち、熱さで火傷しそうになる。デファネルは地面に着地した。



「魔族には天界のものに触れられないんだ」



デファネルは捨てた弓を再度拾ってイルに放つ。



「お前の動きは見切った!」



イルがデファネルに炎の玉を投げつける。デファネルがマントで相殺すると、イルはデファネルの首を掴んだ。



「デファネル!」 



このままだと彼は消滅される。怜は覚悟を決めて、デファネルの短剣を掴んだ。手からしゅうしゅうと音を立て、肌の焼ける匂いがする。怜は痛みを我慢し、短剣を持ち上げ、イルに向かって剣を振り上げる。しかし、イルに動きを止められ首を掴まれた。



「お前、私と同じ魔族だろ! なぜ天使に肩入れする!」


「そんなの関係ない。私は彼の友達だから!」



デファネルは痛みに顔を歪めながら、怜の方を見る。



「日比谷さん……!」


「それならお前も死ね!」



イルが怜の首をさらに強く掴んだ。



***



ヘブンは応戦しようと刀を構えるが、ライグリードが止めた。



「ライグリード様! このままでは」


「大丈夫。怜を信じて」



怜がうわあぁぁ!と叫ぶと、右腕の逆十字が赤く光出した。イルはその光に眩んで二人を解放する。デファネルは地面に倒れたが、怜はゆっくりと地に降りた。


そして、デファネルの剣を宙に浮かせ、イルに向かって放つ。剣はイルの顔に刺さり、塩酸をかけたように顔の一部が溶けていく。



「ぎゃああああ! 俺の顔が! 俺の美しい顔が!」



デファネルは怜の何かが変わったことに気づく。



「日比谷さん?」



怜はゆっくりとイルの肩に足を置いた。足が重いのか、イルは痛い!と叫ぶ。怜はニヤリと笑うと、イルに向かって艶やな重みのある声で言った。



「士爵よ。一代かぎりの陰湿の貴公子よ。私の名前を覚えておくがいい。私は、レイ。魔界の女帝になる存在だ。わかったらさっさとここから立ち去れ!」


「そんなこと言っていいのか貴様! 魔王様に言いつけてやるぞ! 彼は私の友人だからな! 天使側につくなんて謀反もいいところだぞ!」



とイルは痛みで顔を歪ませながらも強気に叫んだ。だが、怜の真っ赤な瞳が恐かったのか、ひぃ!と悲鳴をあげる。



「それなら、魔王によろしくと伝えておいてくれ。私は私のやり方があるんだ。私を消滅させよう思うならやり返す。それだけだ」



陰湿な悪魔は怜から解放されると、一目散に魔方陣に飛び込んで帰っていく。

屋上は一気に静かになり、緑色の光も消えていった。


右腕の赤い光もおさまると、怜は本来の意識を取り戻した。



「わ、私何したの? あれ、あの魔族は? いなくなってるけど」



デファネルはゆっくりと身を起こすと、怜に尋ねる。



「君は、ただの魔族じゃないんだね」


「デファネル。今まで隠していてごめんなさい。まさかあなたが天使だなんて思わなかったから。よくわからないけど、彼は魔界に帰ったのよね。それなら後は、魔方陣を消してめでたしめでたしだ……」



デファネルは捨てられていた短剣を広い、怜に矛先を向ける。



「デ……デファネル?」


「日比谷怜。いや、魔界の女帝となる存在レイ。今までことは礼を言おう。だが将来、天界ましてや人間界の脅威になるものをここで野放しにするわけにはいかない。本当にすまない」



怜はそう言われてショックを受けたが、デファネルを静かに見つめると、デファネルに尋ねた。



「せめて教えて。あなたはなぜ羽生利光として生きていたのか。友達、いえ守護主のためなんでしょ?」



デファネルは辛そうな顔をしている。怜は続けた。



「友達として教えてほしいの。あなたがいかに辛かったか、そして悔しかったか。生田隼人君について教えてほしい」



デファネルは怜の言葉が響いたのか、わかったと言って口を開いた。


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