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第13話 私にできること


朝が来た。怜はゆっくりと身を起こして身支度を整える。血を飲んだせいか、気分はかなり良かった。制服に着替えて鏡に向かって櫛をとかす。



〈いじめを指示する集団がいて、その集団の指示に他の生徒たちはなぜか大人しく従っている。不思議なのは、従っているどころか一緒になって楽しんでるみたいだった。いじめの首謀者を見つけるためにはどうしたらいいんだろう。私にできることはなんだろうか〉



怜は櫛を置くと、朝日を浴びようと窓の外を見た。



「私はおぞましい魔族。人間は食料。そうだとしても私は私の心に従うのみよ。あのおかしな伝統を止めなきゃ」



あたたかな朝日が怜を励ます。怜は気を引き締めて、よし!と体を深呼吸をした。



〈私にできることがあるとしたら匂いね。怪しいのはあの笹木野って男。異常なくらい薔薇の香りがしていた。いじめが行われるとクラス全体が薔薇の匂いで包まれてた。何かつながってるはずだわ。ひとまず、彼に近づいてみよう〉



怜が心配しているのは、混ざり合うオーラの匂いと食事だった。友達を助けるためには自分がしっかりしなければならない。


彼女はヘブンの部屋をノックした。ドアノブが周り、ネクタイを巻きながらヘブンがでてくる。



「どうした?」


「負のオーラの採り方を教えてほしいの」



ヘブンは怪訝そうに腕を組んだ。



「今まであんなに嫌がってたのに?」


「自分がちゃんとしなきゃ、何も守れないと思って。既に漂っている負のオーラは吸収できない?自分の部屋のオーラを採取したいの」


「時間が経った後のオーラは薄くなる。だが、お前の部屋ならまだ匂いが強めだからな。いいよ、教えてやる。羽生のためだろ?」



怜はハンカチを用意しており、ヘブンに渡した。



「そうよ。ちゃんと学ぼうって姿勢があるんだからいいじゃない」


「ふん。まぁいい。小瓶を貸してやるからちゃんと記憶するんだ」



怜はヘブンにお礼を言う。



「ありがとう。ヘブン。優しいじゃない」


「勘違いするな。ライグリード様のためだ」



ヘブンは小瓶を取りに戻り、怜の部屋でレクチャーを始めた。



***



怜たちは学校へと向かった。 新入りの魔族三人組は着実に狩りを行っているとヘブンが怜に告げる。



「だいぶ楽しんでいるみたいだな。お前もプライドを捨てて、魔族ライフを楽しめばいいものを」


「ねぇ、ヘブ……いや、鬼道くん。あの学校っていじめが伝統になってるんだって。いじめるための集団をつくってて、トップまでいるんだって。鬼道くんは何か知ってる?」



ヘブンは無視されたことにむっとしたが、いいやと答える。



「そんな集団がいるなら是非紹介してほしいところだ。彼らをもっと利用して人をばんばん殺していってもらいたいね」


「既に自殺者も出てるの。それに気になるのは鬱陶しいくらいのあの薔薇の香り。あれはなんのオーラなの?」



ヘブンはたしかにと返答した。



「あの匂いは、たしか陰湿のオーラだった気がする。そのいじめの集団を調べれば狩りに応用できるかもしれないな。よし、手伝おう」


「私は、羽生くんを助けるために調べてるの。狩りに利用しないで。警察に通報して、解散させるつもりよ。伝統を断ち切るの」



彼は呆れた顔で彼女に言う。



「人間ってなんでこうも楽観的なんだか」



教室に入り、怜は荷物を机に置くと、羽生に挨拶しに行く。



「羽生君! おはよ……ってどうしたのよその顔!」



羽生の右頬に紫色のアザができていた。怜は急いでハンカチを濡らし、彼の頬にそれをあてる。羽生はありがとうと返した。



「昨日の放課後にやられたんだ。大丈夫。いつものことだから」



彼の机を見ると、ネームペンやチョークで心無い暴言の数々が殴り書きされている。



「ひどい……」



怜は綺麗な雑巾で、羽生の机を拭く。魔族の一人、虫谷がクスクスと笑って怜に問いかけた。



「なんの得があって彼を助けてるんですか?」怜は厳しく返す。



「あなたには一生わからないでしょうね。羽生くん、油性マーカーはアルコールだと落ちるわ。もってきてくれる?」



後ろから笹木野聖がやってきた。彼はアルコールスプレーを手に持って羽生の机にポンと置く。相変わらず薔薇の香りは強かった。



「はい。アルコールスプレー」


「ありがとう。笹木野君」



怜はアルコールスプレーを噴射し机を拭く。笹木野を見ないように羽生はありがとうと呟いた。羽生の手が小刻みに震え、イランイランの香りが広がった。



〈なんなの?〉



笹木野は怜にニコリと微笑む。怜はその誘いに乗ってみることにした。


午前中の授業が終わり、怜は笹木野に近づく。彼は待ってましたと言わんばかりに両手を広げて歓迎してきた。



「一緒にランチしないかい? 話したいことがあるんだ」



怜はいいわと言って、笹木野とお昼に行こうとすると、後ろからヘブン=鬼道が怜の肩を掴んだ。



「俺もいいか?」



笹木野は困った顔で微笑む。



「鬼道君は日比谷さんの幼馴染みだ。心配だよね。でも、ごめんね。彼女と二人で話がしたいんだ。わかるだろ?」



笹木野は怜の腕をつかんで自分の方に引き寄せた。ヘブンが嫌な顔をする。怜はなだめた。



「鬼道君。私なら大丈夫よ。また後でね」



ヘブンはわかったと嫌々ながらに返事をして、去っていった。



「笹木野くん。行こう」



笹木野はうんと微笑むと、怜を食堂へと案内した。




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